小さな幼稚園での3年保育

母の入院前後、症状がかなり悪かった頃、わたしは自宅にいるのがつらかった。かといってどこへ行くあてもなく、苦しくて、どうしたらいいかわからなかった。そんな折、下のこどもを幼稚園に送っていって、そのまま幼稚園で時間を過ごしていたことがあった。教会が運営している小さな幼稚園だった。園長先生は女性で、わたしの母より一世代若かったように思う。その園長先生が、職員室で何度も、わたしの話を聴いて下さった。母の病気のこと、母からの虐待、父から母への暴力、そして自分のこどもの発達の遅れなどについて話した。先生はわたしの話に耳を傾け、時には「それは思いすぎと違うかな」などとご自身の意見もかえして下さった。園児の母親の悩み相談など、本来の業務ではないのに、よく何度も迎え入れて下さったものだと思う。三角屋根の二階の職員室から、園庭で遊んでいるこどもたちが見えた。話が長くなって、そこで先生と一緒に買ってきた弁当を食べたこともあった。
そのうちさすがに、先生のお仕事を邪魔してご迷惑をかけ続けるのも申し訳なくなってきた。それで、少し園庭の手入れをさせて下さいと願い出てみた。先生は喜んで、来たい時に来て、好きなようにやって下さいと言って下さった。天気がよくて体調がよい日、こどもと一緒に登園して、園庭で草むしりをしたり、花壇の手入れをしたりして、少し時間を過ごしてから家に帰るようになった。草花の世話をしたり土いじりをしたりするのは、話を聴いてもらうことと同じくらい気がまぎれた。虫を見つけたりすると、年長のこどもたちが覗きに来てくれることもあった。
あたたかい、不思議な幼稚園だった。こどもを育んで下さったのはもちろん、その上に、わたしがこどもに戻って、もう一度育ち直していたような3年間だった。

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