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伝えるプロの伝わる言葉

4月4日、鎌倉FMの番組【ナミの鎌倉ナビ】にゲストとしてお招き頂いた。パーソナリティーは月乃南(つきのなみ)さん、そしてアシスタント(?!)は元NHKエグゼクティブアナウンサーの村上信夫さんである。
「伝えるプロ」のお二人との収録で、つくづく感じたことを述べてみたい。今回は久しぶりに再会した村上信夫さんについて。

伝わる言葉を紡ぎ出す術は・・・

村上さんと会ったのは、仕事とプライベート併せて5回目くらいかと思う。初めて出逢ったのは5年ほど前だろうか。
なんだ、その程度の仲なのか、と、思われるかもしれないが、心胆相照らす関係というのは、時間や会った回数など無関係である。いつ会っても「昨日の今日」のような感覚で、どんどん話が盛り上がる。

そんな村上さんと私には、共通点がある。(極めて僭越なのだけれど)
それは、「聴く姿勢」である。
初めての対談の時のことだ。拙著『女子の武士道』に基づいて、祖母の教えについて問われるがままに語った。その際、村上さんは「話は全身で聴きなさい」という教えに対して、「同じ事を父から教えられた」と、語られた。
村上さんの御尊父は、お商売をされており、やはり躾けに厳しかったという。

ああ、なるほど。だからこの方は「伝えるプロ」になったのだ。

私はそう思った(言いはしなかったけれど)。

今や猫も杓子も「発信」という時代である。特に世代が若くなるほど、ひっきりなしに発信しているように見受けられる。発信することが生活の一部になっているのだ(もっとも、私もそうだ。若くはないけれど)
そんな世代に「話し上手は聞き上手」という言葉を知っている人は、どれだけいるのだろう。

なぜ、相手の話を聴くのが上手だと、話すのが上手になるのか。

理由はいくらでもあるが、本質的なところのみ言えば、「相手の身になれる」からである。そして、村上さんの場合は、その度合いが深い。つまり、ほとんど「自他一如」の境地に入れるのだ。
村上さんは御尊父の教えである「話は全身で聴く」ことを、キャリアを積むなかで、さらには、引退後の多彩なご活動においても、まったく変わることなく貫いている。
「聴いている時」つまり「伝えていない時」にこそ、伝える技術は磨かれ、「伝わる言葉」を身につける結果となるのだろう。
蛇足ながら、冒頭で「共通点」などと述べたが、それはあくまで「聴く姿勢」についてのことで、当然ながら私は「伝わる言葉」を身につけているとまではいえない。それだけに、村上さんの背景にあるものが、なんとはなしに見えるのだ。

「沈黙」を絶妙な「間」に置き換えた瞬間技


収録のなかで、私が言葉に詰まった瞬間があった。一秒にも満たなかったと思う。でも、詰まった瞬間、心の中で「しまった!」と焦りを抱いた。
その時だった。
村上さんは気の利いた言葉を紡ぎ出し、その場を笑いに変えたのだ。
ともすれば気まずい「沈黙」になりかねなかったところが、絶妙な「間」となった。
私がどれだけホッとしたか、言うまでもない。
(私だって緊張するのだ)
こういうのを懐の深さというのだろう。
もちろん長年の経験もある。
しかし、どれほどプロであっても、実は、そうした瞬間技が出てこない人もいるにはいる。
先に「自他一如」と述べたが、まさにそれが表れたのがここなのだ。
たぶん、村上さんは知らない。あの瞬間、私の焦りを自分が察知したことなど、たぶん知らない。
知らないでやってしまうところが、プロ中のプロたる所以なのだ。
収録が終わった後、車窓から濡れた景色を眺めながら、すごいものだなぁとつくづく思った。
凡庸だけれど、ただもう「すごい」という言葉しか出てこない。
でも、本当に感激した時なんて、そんなものだ。
私も文章における「言葉のプロ」ではあるけれど、あれこれ修飾した言葉など、かえって鬱陶しくなる。

今、時代はとてつもない変容期に入っている。産業革命だのIT革命など「革命」と称される変化が過去にもあったが、今回は「変容」だ。
変化がもともとある何かに工夫を加えて形を変えることに対して、変容はこれまでの何かを破壊した上で新しいものを生み出す。サナギが蝶に変わっていくような、まさに、まったく異なる世界が生み出されようとしている。

しかし、どれほど大きな変容が起きたとしても、人類は「伝える」ことを決してやめないだろう。
そうである以上、「どうすれば伝わるか」ということを考え続けるだろう。つまり言葉は、いかなる世界にも生き続けるのだ。

どんな姿勢で伝えるのか。どんな言葉が伝わるのか。

あらためて基本、根本、本質に立ち返って、考えてみたいところである。



https://note.com/konohana_sakuya/n/neb6addc0c76a






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石川真理子
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