失われた陰影 36 石川真理子 2024年8月2日 08:30 美というものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰影のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰影を利用するに至った。事実、日本座敷の美は全く陰影の濃淡によって生まれているので、それ以外に何もない。『陰影礼賛』谷崎潤一郎夏の日盛り家の中は陰影がいっそう濃かったことを想い出します。黒光りする廊下はひんやりと冷たく濡れ縁の向こうに見える庭は痛いほどの眩しさ。光が強いほど影は濃くなるこの単純素朴な事実が夏という季節の認識として記憶されました。蝉時雨と白むほどの日射し薄暗がりのなか静まりかえった障子と畳その境を中和するように風鈴が鳴る。夏の風情をそういえば見かけなくなった、「酷暑」と呼ばれる最近の夏に。写真:魚住心 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! みなさまからいただくサポートは、主に史料や文献の購入、史跡や人物の取材の際に大切に使わせていただき、素晴らしい日本の歴史と伝統の継承に尽力いたします。 チップで応援する #詩 #谷崎潤一郎 #日本の美 #陰影礼賛 #夏の風情 36