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日常管理で文化財を”まもる”「文化財IPMメンテナンス」

文化財IPMメンテナンス

 文化財の劣化は、生物的劣化、物理的劣化、化学的劣化、人的劣化、天災による劣化の大きく5つに分けられますが、これらはさまざまな因子が複合的に重なりあって発生します。中でも生物被害による生物的劣化、有害汚染による化学的劣化は特に日常的に起こりうる現象として挙げられます。
 

文化財IPMにおける環境保全活動サイクル

1.被害要因を「回避(Avoid)
2.被害要因の侵入ルートの「遮断(Block)
3.早期の「発見(Detect)
4.被害要因の除去などの「対処(Respond)
5.今後の予防策としての「見直し(Review)

 文化財IPMメンテナンスは、これらを繰り返し行うことで、化学薬剤だけに頼らず計画的、日常的に生物加害を防除し、保存環境を整え、総合的に管理していく方法のことを言います。文化財害虫・カビの調査や、監視(モニタリング)、清掃などの日常管理が求められます。
 今回は、「文化財IPMメンテナンス」の基本的な考え方と日常管理についてご紹介いたします。



1. 回避 Avoid|文化財害虫・カビを寄せつけない効果的な清掃とクリーニング


文化財害虫による被害は、下記の条件が揃うと発生する傾向にあります。

  • 外部からの侵入

  • 過度な湿気、ゴミなど文化財害虫の餌となるものがある

  • 清掃しにくい場所、暗所

 カビ対策としては、室内の相対湿度を60%RHより低く維持することです。外壁、床面、空調機の冷気が直接あたる所などの結露しやすい場所は、特に注意が必要です。
 収蔵棚については、一番下の棚板は最低でも100mm、可能ならばそれ以上床面より高く上げると効果的です。

結露を避けるためのポイント

2. 遮断 Block|文化財害虫やネズミが侵入するルートの遮断


下記のような対策を行い、被害要因を遮断します。

  • 建物の開口部や隙間に網戸や防虫ネットを取り付ける。

  • 借用資料や新収蔵資料の受け入れ時に付着してきた文化財害虫の侵入を防ぐ。

  • 清掃を日常的に行い、文化財害虫の栄養分・繁殖場所を除去する。

  • 温湿度を管理する。

  • 出入り口に粘着マットや室内履きを設置し、塵埃を持ち込まない。


3. 発見 Detect|早期発見が重要、またその記録は不可欠


日所点検で早期発見し、拡大の阻止と対処を早い段階で行います。

  • モニタリングトラップ調査

 昆虫の生息状況を把握し、侵入経路を特定することで、状況に応じた総合的な対策を立てることができます。

『筧-KAKEHI-』取扱いの昆虫生息調査用トラップ 商品一覧
下記商品はオンラインショップで購入可能です。

◎インセンクトトラップ(PP製 / 紙製)

◎LCインジケータ

◎IPMトラップ


  • 目視で日常点検

 ライトを斜めから当てると、埃やカビが浮かび上がり観察しやすくなります。

  • 専用機材で把握する

 「紫外線調査」、「付着菌調査」、「落下菌調査」など
 専門業者と協力をして、環境調査を行います。調査をご希望の方は金剛カタログP.183(以下のリンク先①)をご覧の上、お問い合わせフォーム(以下のリンク先②)よりお問い合わせください。

<① 金剛カタログVol.11_P.183 昆虫調査・カビ調査>

https://www.kongo-corp.co.jp/product/_userdata/KONGO%20General%20Catalog_Vol11/index.html#page=185

<② お問い合わせフォーム>


4. 対処 Respond|収蔵資料に安全な方法を探る


  • 文化財害虫被害

 文化財虫菌害が発生した際は、直ちに文化財害虫の拡散・被害を阻止するために隔離し、駆除の対象や被害範囲、文化財の材質を考慮した適切な方法で対処します。

  • カビ被害

 ほかの収蔵資料に被害が移らないように隔離したうえ、発生場所の水分除去・湿度を下げることが重要です。カビを放置しておくと、さらなるカビの繁殖や文化財害虫を誘引することになります。

燻蒸による対処方法※
 
被害の「性質」「程度」によっては、燻蒸処理を必要とする場合があります。
 詳しくは、下記リンク先(金剛カタログvol.11_P.187)に代表的な処理方法と、効果・材質への影響・人体への安全性等をまとめていますのでぜひご確認ください。

<金剛カタログvol.11_P.187 燻蒸による対処方法>

https://www.kongo-corp.co.jp/product/_userdata/KONGO%20General%20Catalog_Vol11/index.html#page=189


5. 見直し Review|日常管理による予防対策


 文化財害虫の餌やカビの原因となる埃を定期的な清掃で取り除きましょう。
 カビに対する基本的な対策は、水分のコントロールです。湿気だまりを作らず、相対湿度を60%RHより低く維持することです。また、こまめな掃除や作品のクリーニングは、カビの胞子や栄養源を豊富に含む汚れや埃を除去するので非常に有効です。


最後に


 まずは現状を知ることから始めましょう。把握した状況に応じて最適な対策を立てることが、総合的(効果面・環境面・経済面)にみて有効かつ負荷が最も少ないと考えます。

環境保全調査のフロー


 保存と展示の専門店『筧-KAKEHI』は、文化財IPMの考え方も取り入れながら、文化財や貴重資料を後世に繋いでいく皆さまのお手伝いをしています。

<防虫・防カビ商品>

<光・温湿度管理商品>


出典:『金剛株式会社 総合カタログVol.11(P.167-183)』金剛株式会社
https://www.kongo-corp.co.jp/product/_userdata/KONGO%20General%20Catalog_Vol11/index.html#page=169

※金剛株式会社は、保存と展示の専門店『筧-KAKEHI-』の運営元です。


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