1秒.枠物語 / 金曜日の秒針
【 1秒. 枠物語 】
厨二病には二種類ある。
一つは、鼻で笑われる独りよがりな自己罹患。
もう一つは、皆で遊べるボードゲームのような流行り病。
ではこんな病状はどうだろう。
僕はこのまま大人になってはいけない事を知った。
なぜなら、僕が大人になった時、世界は一変し爆縮し、そのまま小さな点になって消滅してしまうと、未来の僕から教えられたからだ。
もしもそうなってしまったら、僕達はもう一緒に生きていくことは出来ない。
大人になるという事は、どちらかが死に、残った一人が、ずっと一人で生きていく世界へ行ってしまうという事なのだ。
そんな意味深で、嘘くさいエセ哲学に罹患した僕の病名は、きっと独りよがりな自己罹患に違いない。
それが嫌なら、その病を流行り病にすべく、誰彼と無く感染するほど、強力で普遍的な病へと変異させなければならない。
でも僕は自らを隔離し、その病状を記録する観察者として、僕自身の延命に努めよう。
さて、以上のような症状に病名を付けるとしたら永劫猶予。
いや、それはただの言葉遊びだ。
まだ足りない。より深く、より強く、自己罹患しなければ気がすまない。
それは秒針の先端で刺した指先の、ザクロの一粒のような艷やかな味が、忘れられないから。
いよいよ混乱した僕はAIにこの病名を問い合わせてみた。
するとAIは答えた。
◇刹那的救済症候群
刹那の瞬間にしか救いを見出せず、その繰り返しの中で自身を保とうとする心の病。
◇未完世界強迫症
自らの成長が世界の終焉と直結しているという思い込みに囚われ、成長を拒む心理的な強迫観念。
◇虚構哲学性発作
嘘めいた哲学的思索に囚われ、それが自己アイデンティティの核となる症状。
なるほど、するとこれは確かに病気なのだ。
しかも、多疾患併存という診断であり、その治療は難しい。
僕はこの難病と共に、生きてきたし、生きていくのかも知れない。