2秒.二人の遊園地 / 金曜日の秒針
【 2秒. 二人の遊園地 】
芽依(めい)とは久しぶりだった。
私達は同じ中学だったけど、高校は別になった。
それでお互い忙しくて、SNSで愚痴を言ったり、誰彼の噂話をしたり、そんな感じだった。
それで一ヶ月くらいたった頃、久しぶりに二人でぶらつこうという事になった。
それは近くの遊園地。
いつからかそう呼んでいた渋谷の街。
歩いて直ぐの場所に広がっているその騒がしい街は、中学になってから私達の遊び場になっていた。
お金は無いけど、服を見たり、小物を見たり、同性の化粧を見たり。
芽依はといえば異性に目覚めて、男の視線に一喜一憂して、私がなんとかして他に連れて行かないと、危ないと思うくらいに、ふわふわしてた。
そんな芽依と、ちっとも頭に入らないどうでもいい話をしながらぶらついていた街は、ふと見つけた通路に入ると階段があり、そのまま大きなビルの店街に抜けたり。
どこへ行くとも決めずに、ただ行き当たりばったりで、道も階段も店も、それから空も、奇妙に繋がる迷路みたいで、私はそれが楽しくて仕方なかった。街に行くというよりも、そこに広がっている知らない世界に潜っていくような、そんな場所だった。
でも久しぶりに会った芽依は、ほんの少しの間に大人というか女になった感じで、男出来た?と肩を当ててくすぐったりしても、別にそうでもないと、そっけなかった。
少し居心地が悪くなってしまった私に、芽依は珍しく行きたいところがあるから行こうと私を誘った。
それは最近できた高いビルの屋上だった。
でもそこは有料で、大人料金になってしまった私達には高すぎると、私は首を振った。
すると「なら出すよ」とあっさり言った芽依に私は強引にひっぱられ、とうとうその屋上に来てしまった。
そういえば今まで、貸し借りなんて気にしない仲だったと思っていたけど、その料金の高さもあって私は「悪いね」を連発した。
屋上は綺麗なガラスと照明に囲まれた場所で、そこから私達は二人の遊園地を眺めたけど、本音でいってつまらなかった。
眺めるよりも、街の迷路を二人で彷徨い歩いた方が、ずっといいと私は思った。
すると芽依が、屋上の芝生に寝転んだ。
私も真似をしてその横に寝転ぶと、見えるのは空だけになった。
私達はそこで無言のまま時を過ごした。
空を見ながら眠るのはどう?
と言いかけて、ふと今の芽依なら子どもっぽいとか言いそうだと隣を見ると、そこに芽依の姿は無かった。
あわてて見回しても彼女の姿は無く、携帯で連絡しようとすると、どのアプリにも芽依の名前が無かった。
あの日から私は芽依を探した。
友達に聞いた。家まで行ってみた。
でも芽依が居た痕跡はどこにもなかった。
どんどん変わっていく街に飲み込まれて、そのまま消えてしまったように、私の友達は私の記憶の中だけの芽依になってしまった。それ以来、私は俯いて歩き、空が嫌いになり、街はつまらないテーマパークみたいになった。
最初から居なかった。それが大人の答えだと、私にも分かる。
でも、本当はぜんぜん分からない。
心が分かりたくもないと、ずっとズキズキ泣いている。