『言語表現法講義』 Podcastの原稿
みなさん、はじめまして。
書籍編集者の今野良介と申します。
この「スキンヘッド編集者が嫉妬した本」では、普段ビジネス書を作っているわたしが、「やられた!」とか、「こんな本を作ってみたい」と思った本をご紹介します。
最初に紹介するのは、加藤典洋さんの『言語表現法講義』です。
1996年に岩波書店から出版され、272ページ、定価は2970円です。なぜこの本をお勧めしたいかというと、2970円は安すぎると思うほど、「書くことを教える本」としてのマイベストだからです。
著者の加藤さんは、『敗戦後論』とか『小説の未来』とか『村上春樹はむずかしい』などの代表作がある、日本を代表する文芸評論家です。加藤さんが明治学院大学で担当した9年間の講義を書籍化したものが、この本です。
つまり、普段プロの小説家の作品を批評している人が、学生が書いた文章を読んで添削し、講評した記録です。
……そう言うとですね、著者が文芸評論家だし、表紙もタイトルも教科書っぽいし、難しそうに思えるのですが、じつはとてもやさしい本です。
というのも、本の冒頭にこうあります。
「若い人が文章を嫌いになる理由は、自分が一生懸命書いたものを、ちゃんと読んでくれる人がいないからだ。」
つまり、文章を書き慣れていない学生が、書くことに挫折しないように、書くことのおもしろさを体験してもらうために書かれた本なので、誰でも読めます。
各章のタイトルは、次のとおりです。
この章タイトルだけでも、この本が「絶対伝わる方法」みたいなテクニック論ではなく、書くことの根っこに迫ろうとする本だとわかるのではないでしょうか。
ここからは、本書の中から、「自分だからこそ書ける文章の書き方」に関するフレーズを、3つ紹介します。
まず1つめ。
大事なことを一気に5こも言ってるのですが、あまり他で言われていないのが後半2つです。「自分の理解の仕方をわかりながら、自分を元気にする言い方で」というところ。
新商品のコピーでも、経営者の事業計画でも、SNSに書く文章でも、「読者に何かを伝えたい」と願って文章を書く時に大事なのは、その内容を自分がどう理解したかを順を追って書くことだ、と加藤さんは言います。なぜなら、読者が、あなたの思考の過程をなぞることができるからです。
そして、どうせ同じことを言うならば、落ち込ませたり傷つけたり、悲しませたりするよりも、元気になる書き方をしようと勧めています。この2つを意識するかしないかで、文章の印象はガラッと変わるはずです。
次に紹介したいフレーズは、
です。
文章を書きたい衝動が生まれるのは、何かに感動したときでしょう。いい本を読んだり、いい映画を見たり、政治に怒ったり、誰かが亡くなって悲しんだりとかですね。でも、感動そのものを書くと、「おもしろかった」「かなしかった」みたいな、小さい子の作文と同じになってしまう。
だから、何か自分の外にあるものを持ってきて、そこに感動した理由を乗せて、感動しながら書く。その「外にあるもの」を、加藤さんは「ゴミ」と表現します。
そのゴミとは、いわゆる「知識」のことです。
最後に紹介するフレーズは、
です。
「そんなことを思う今日この頃です」とか「この記事はいかがでしたでしょうか」みたいな決まり文句が最後に書かれた文章を良く見かけると思うのですが、それが文章のすべてを台無しにする、と言います。
加藤さんは、最後にそういう定型文を書くのは「現状に止まろうとする意思の表れだ」というようなことを書いています。わたしはこれを読んでグサッときました。
この本は、全体として「書くことは、考えることの手段であり、知らなかった自分と出会う経験である。」というメッセージが込められている本です。
ぜひ読んでいただき、SNSなどでみなさんの感想を聞かせていただけたらうれしいです。
以上、今野良介でした。
また次回、お会いしましょう。