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『終わらない週末』ルマーン・アラム/高山真由美訳

郊外の貸別荘を借りて休暇を楽しもうとしていた父母と兄妹の4人家族。しかし初日の夜中に、別荘のオーナーを名乗る老夫婦が訪ねて来て曰く、NYの大停電から逃れて来たので、別荘に入れて欲しい、とのこと。気付けば、TVも携帯電話もネットも不通になっています。訳が分からない内に、別荘の周囲では奇妙な現象が次々と発生し始めるのでした。

SFでもホラーでもない、背筋が寒くなるようなリアリティを持ったサスペンスです。当初は、いかにも翻訳調の文体が読みづらく、かつ話の本筋とは関係なさそうな些末な描写があまりにも多過ぎて、読み進めるのに難儀していました。しかし、何かしら未知の良からぬ事態に巻き込まれている気配が濃厚になるにつれて、物語の世界に急速に引き込まれて行きました。

明らかに不気味な事が起こっているのに、それが何なのか最後まで分からない、登場人物たちが抱える恐怖が、そのまま我々読者に伝わってきます。発生している事態そのものへの不安よりも、情報が遮断され何が起こっているのか分からない不安の方が、より恐怖へと直結して行くのです。

2011年の東日本大震災の直後、余震が続く中で、電話もネットも繋がらず、どうなっているのか分からなかった時の不安感が、脳裏に蘇りました。しかし今は、当時よりも更に情報に溢れた世の中であり、しかも登場人物たちが置かれている状況はより不可解であり、かつ環境による孤立感も加わっており、その恐怖感はかなりのものでしょう。こんな状況下で冷静さを保つのは、私には無理な気がします。

執拗なまでに連ねられていた些末な描写こそが、生きている日常の証だったのかも知れないと、後で思い返しました。こんな事が起こらないことを願うばかりです。

[2024/10/06 #読書 #終わらない週末 #ルマーンアラム #高山真由美 #早川書房 ]

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