見出し画像

『さくらのまち』三秋縋

主人公である男子高校生は、とある事件を発端に学級内で完全孤立してしまいます。しかし、一人の級友女子から何故か声を掛けられ、更に対立していた筈の級友男子も声を掛けられて、次第に三人は特別に仲良くなります。ところが、やがて主人公はこの二人の親切心の真意を疑うようになり、ついに自ら関係を壊してしまったのです。それから故郷を離れて十年近くを経た主人公に突然、彼女が自殺した、との謎の連絡があります。真相を確認すべく彼は、見捨てた筈の故郷の町を久し振りに訪れるのでした。

非常に唆的な物語でした。国民全員が腕輪型デバイスで健康管理されている近未来。何かしら問題ありと判定されると、プロンプターなる精神的支援者が割り当てられ、ケアを与える仕組みが構築されています。この一見すると支配的には見えない国民管理システムが、人々の心にじわじわと疑心暗鬼を生じさせ、追い詰めて行くのです。

国に渡すのが単なるヘルスデータであっても、表面的には益があるように思えても、潜在する副作用を見出すのはこんなに困難なのです。安易に事を進めてはならないです。

あちこちに後悔の残る悲しい話ですが、主人公自身は手遅れになっていなかったのが救いです。人のアイデンティティーを作っているのが、どんなに人間関係が疎であっても、他者への何かしらの信頼関係であることを、改めて思いました。

[2024/12/05 #読書 #さくらのまち #三秋縋 #実業之日本社 ]

いいなと思ったら応援しよう!