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『いい子のあくび』高瀬隼子

表題作、および2つの短編を収録しています。

表向きには善良な人を装いながら、内心では事ある毎に悪態をつきまくっている主人公の女性が、歩きスマホしている方が悪いのに衝突を回避している自分に嫌気が差し、あえて避けずに人にぶつかってみたことを発端に、いろいろな事が連鎖して大ごとになってしまう「いい子のあくび」。

会社の同僚の机上に置かれた、創業者を形どった古いフィギュアへの願掛けが流行し、それを小馬鹿にしていた後輩社員がこっそり祈っている姿を目撃してしまう「お供え」。

大袈裟な結婚式に意味を見出だせないと言う理由で友人の結婚式への出席を辞退するも、祝う気がない訳ではない「末永い幸せ」。

現代社会の枠組みにどこか馴染めず、内心で息苦しさを抱えながらも、ぎこちなく生きている人々の悲哀を、少し捻ったシチュエーションを使って浮き彫りにしています。主人公たちの、表の顔とは異なるその時どきの心の動きが、生々しく語られます。起こる出来事が決して壮大ではない身近な程度のものなので、必ずしも共感しない迄も、読んでいて気持ちが入り込みます。そして、主人公たちが企てる世の中へのささやかなる反逆に、こっそりと小さく快哉を叫びたくなるような感じがありました。

過去の作品も含めて、この著者の作風は好みが分かれそうですが、私には極めて面白かったです。


「…同じ人混みでも、混雑した店の中や祭り会場とは違う。駅の人混みだけが、人の悪意を表出させる。強制させられているからかもしれない。みんな、どこにも行きたくないのに、どこかに行かされている。…」(p.14)

[2024/02/02 #読書 #いい子のあくび #高瀬隼子 #集英社 ]

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