
『生皮』井上荒野
小説教室に通う生徒の女性が、人気講師である元書籍編集者の男性によるセクハラに遭い、苦悩の歳月を経て、意を決してその事実を告発するに至るまでの経緯が描かれます。
セクハラをされる側とする側の双方の視点から、状況や心境が生々しく描き出されます。描写があまりにも直截的で、正直に言えば私には苦手な系統ではありましたが、ここまでしたからこそ被害者の心身の苦しみが痛切に伝わっているのも確かです。
立場が上にある者や、権力を持つ者が、当然のようにハラスメントを行っていて、それが彼らにとっては当たり前のこととして自身の中で自己正当化されているのが、身の毛がよだつ程に恐ろしいです。
そして更に恐ろしいのは、それを知りながらも、この業界ではそう言うものだと見て見ぬふりをしたり、むしろ加害者側に媚びて忖度はおろか協力さえしてしまう、業界内の空気感です。こうしてますます加害者側は尊大に付け上がり、被害が拡大して行くのです。
一方の被害者側は、精神的な抑圧によって萎縮させられ、もしくは無理矢理に自身を納得させようとして、結果的に泣き寝入りする例が多いのだと思います。私自身も広義のハラスメントによって似た状況に苦しめられた経験があり、正論や理屈では決して片付けられない彼女たちの絶望は非常に理解できました。
ごく最近を含めて何度も問題が顕在化している、TV業界内で横行するセクハラの状況は、この小説と酷似しているようです。小説にもあるように、業界内の悪しき風習が根深く継承されているのかも知れません。

[2025/02/02 #読書 #生皮 #あるセクシャルハラスメントの光景 #井上荒野 #朝日新聞出版 ]