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『もっと悪い妻』桐野夏生

6つの短編を収録しています。何れも、どこか歪な男女の関係性が痛烈に描写されています。

家事育児を何もしない癖に無神経な理想論を振りかざすバンドマンの夫に、思い知らせるためなら自身を悪者にするのも辞さない「悪い女」。

18も歳下の女に一方的に好意を寄せて、相手から退かれて絶望した男が、すがり付いた元妻から鼻であしらわれる「武蔵野線」。

親から相続したアパート、その最後の住人である独居の高齢女性との暮らしを夢見た男やもめの悲哀の末路の「みなしご」。

条件に釣られて社内結婚した女が、二世帯住宅と夫の鈍感さに辟易しながら、結婚前に想いを寄せていた男の不幸な結婚生活の噂を聞く「残念」。

海外単身赴任中に事故死した夫の記憶を冷ややかに思い出す元妻が、妻を失ったという夫の元上司にうっかり憐憫の情を抱きそうになる「オールドボーイズ」。

不倫相手である学生時代の男友達との関係を夫に認めさせた女が、自身の身勝手さをペットによって思い知らされる表題作「もっと悪い女」。

それぞれに登場する女性たちの、良く言えばたくましく、悪く言えばふてぶてしく、強靭に生き抜いている姿は、いかにもこの著者による作品らしいもの。しかもそれを、肯定するでも否定するでもなく、大いに皮肉を込めつつ滑稽に描き出しているので、男である自分が読んでいても、痛快な気分になったり苦笑させられたりします。そしてどの作品も、末尾の数行から1ページ程度での展開の鮮やかさに、唸らされます。ふと、「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇」の名言を思い出しました。

[2024/01/28 #読書 #もっと悪い妻 #桐野夏生 #文藝春秋 ]

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