『ツミデミック』一穂ミチ
新型コロナ禍を背景にした、6つの短編が収められています。
関西から上京して5年、日銭仕事に明け暮れる中で、ふいに声を掛けられた女が、もう会う筈のない中学の同級生だったと判明する「違う羽の鳥」 。
理解のない夫に苛立つ妻が、子供が幼稚園に行っている間に頼むフードデリバリーの配達員に心をときめかせながらエスカレートして行く「ロマンス☆」。
豪雨の川で溺死した主人公が、お悔やみに来た仲の良かった旧友と担任教師の会話から、恐るべき死の真相の記憶を蘇らせる「憐光」。
コロナで失職中の料理人が、息子がたまたま知り合った近所の金持ちらしき独居老人に取り入ろうとするも、魂胆がバレてしまう「特別縁故者」。
妻と折り合いの良くない実家の母親、その隣人夫妻にウクライナ危機が意外な形で波及していたことを知る「祝福の歌」。
SNSで集まった自殺志願の5人が、互いの身の上を知りながら終着地で見ることになったまさかの事実の「さざなみドライブ」。
何れの作品も、新型コロナウィルスの感染が拡大した頃の世の中が舞台となっており、かつ表題の通り犯罪の匂いがするものばかり。しかも意外性のある話が多く、非常に面白いです。
つくづく思い知らされるのが、まだほんの数年しか経っていないのに、コロナ禍中に実際にあったいろいろを忘れかけていることです。あれこれと思い出させてくれる中に、政府の無策や愚策がチクリと描写されていて、これは忘れてはならないです。
同著者の「スモールワールズ」もそうでしたが、作品毎に物語の色合いがガラリと変わり、一人の作家が書いたとはとても思えない位です。何と多くの作風を持った作家なのでしょう。