『猿の戴冠式』小砂川チト
主人公である元アスリートの女性は、動物園で出会ったボノボに、異様なまでの親近感を抱き、連日通い詰めます。一方でボノボの側でも、頻繁に訪れるこの女性に対し、やはり特別な何かを感じ取ります。これは、両者の幼少期にあった特殊な体験に起因するものでした。やがて発生したボノボの脱走事件を契機に、彼女は再起を図るのです。
著者の前作『家庭用安全坑夫』もかなり突拍子もない話でしたが、今回はそれをも上回る奇抜な話でした。(たまたま数日前に見たシュルレアリスム展の実験的作品を、ふと想起させられました。)人間のみならずボノボの心の内をも尤もらしく描写しているのが斬新で、どこか共感しそうでいて実は全く噛み合っていないのが、じわじわと面白いです。
しかし、そもそも理解を超えた設定である上に、語り手が唐突かつ頻繁に入れ替わったり、時系列を行ったり来たりするので、なかなか難解です。著者の意欲は買いますが、少々やり過ぎの感もありました。
「人間界のルールはわたしにはいつも不可解で、理不尽で、あまりにも難解だった。」(p.90)