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『ガザに地下鉄が走る日』岡真理
『ガザに地下鉄が走る日』岡真理
パレスチナ人と数十年にわたって関わり続けて来た著者が、必ずしもきちんと認識されていない、パレスチナの悲惨な状況と、イスラエルの蛮行の実態について、事実を正しく伝えています。表題だけ見ると希望的な内容かとも思われますが、実際には全くそうではないです。
書かれているエピソードは全て、著者自身が出会った人だったり目撃した風景だったり、徹底して直接見聞きしたものです。そこから浮かび上がるイスラエルと言う国の本質には、ただただ末恐ろしさを感じました。
読んでいてまず、自分があまりにも無知であったことをつくづく思い知らされました。この本が刊行されたのは2018年で、 昨年2023年10月に始まった(そしてそれなりに報道された)イスラエルの大規模なガザ侵攻よりかなり前です。しかしイスラエルはこれよりずっと前からパレスチナ人への無差別爆撃や集団虐殺を継続的に繰り返して来ており、今回の攻撃もその延長線上にある一例にしか見えない位です。
そもそも1948年のイスラエルの建国の時点から、既に「民族浄化」は始まっていたのです。〈ユダヤ人の優越主義に基づくパレスチナ人に対する差別とアパルトヘイト体制がつねにイスラエル国家の実態〉(p.292)と、著者は強い口調で非難していますが、実際に行われて来た・行われていることを見れば確かにその通りなのです。
しかもイスラエルによる国家犯罪が、今まで一度も裁かれることがなく、〈イスラエル不処罰の「伝統」〉(p.129)が出来上がっている、と言うのもかなり異様です。それ故にイスラエルは、何度でも戦争犯罪を繰り返しエスカレートさせていても、国際社会はそれを黙認しているのに等しいのです。
完全封鎖されたガザ地区の中の様子や、周辺国の難民キャンプの様子など、現地を繰り返し訪れて活動している人でなければなかなか知り得ないリアルな状況も知りました。このようなことは、少なくとも日本のTVも新聞も(昨年の侵攻までは)本気で伝えてはいなかったと思います。
〈たとえ停戦になったとしても、この出来事をもし私たちが忘却するなら、私たちは次の虐殺への道を整えていることになる。私たちは今、《ガザ》のあとにいるのではない、次の《ガザ》の前にいるのだと。〉(p.239)と著者は説いていて、そして実際にその通りになっていて、しかも状況は当時より更に悪くなっています。あまりにもの希望のなさと、私たち個人に出来ることの少なさを思うと、暗澹たる気持ちになります。
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[2024/06/06 #読書 #ガザに地下鉄が走る日 #岡真理 #みすず書房 ]