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好きになるキッカケはいつも単純

10年ほど前
SNSに大好きだった女性がいた
 
もちろん、その人の名前も顔も声もなにも知らない
けど、私はその人に憧れていた
その人の書く文章が好きだった
 
SNSだから、その人の文章しか知らない
その人の言葉使い、言葉選び
そして、その人が書く文脈しか知らない

けれど、それさえあれば
なんとなく“その人”がわかる気がした


私も文章を書くのが好きだからなのかもしれない
だから、人が書く文章、言葉選びで
ある程度、人を判断するクセがついている

でも、あながちそれは間違ってはない
 


私は、その人の書く文章が好きすぎて
何回も同じ文章を読んだりもした

どうやったらこんなカッコいい文章が書けるんだろ
どうやったらこんな言葉を選べるんだろ
どうやったらこんな表現ができるんだろ

と、いつも思っていた



ある日、その人が本好きであることを知った

なるほど……
本が好きだからこんな文章が書けるのか

と、単純に思った


そして私は思い切って
その人にメッセージを飛ばした

“好きな本はなんですか?”

そしたら、返信してくれた内容に
その本のタイトルの他に、こうも書かれていた
 

“この本が私の原点だよ、この本は私の指南書”


そのメッセージを読んだとき私は
ものすごく羨ましく思えた

 


私は、なにを隠そう本が大嫌いだった
文章を書くのは好きなのに、本を読むのは嫌いだった
子供にも絵本の読み聞かせなんか
ほとんどしたことない

なにせ、字だらけの本のなにがおもしろいのか
まったくもって理解できなかった

だから、本で人生が変わるとか
本が指南書になるとか原点とか、意味がわからない

だからこそ、羨ましかったのだ



その人のことが大好きだった私は
同じ本を読んでみたい、と
ただただそれだけの理由で本屋さんに行った

同じ本を見つけたときは、すごい嬉しかった
なんだかその人に近づけた気がした
その人の一部を勝手に知れた気がした

細かい字が膨大に並んでいるのと
分厚さでで挫けそうになったが、読んでみたい

その想いだけで購入した
 
 
そして、あの挫折しかかったのはどこへやら
あっという間に読破した

 

これが、私が本を好きになった理由だった

 

正直、その人が指南書だと言ってた本は
私にはかなり難しかった
読破したものの、内容がわかったのか
と問われれば、もしかしたら曖昧かもしれない

けど、なぜかその本の中の主人公が
その人と重なって
切なかったり、苦しかったり
説明のつかないような感情になって
泣きそうになったのだ

それで心底、読んで良かった、と思ったのだ

 
 
もう、これは感覚、感性でしかない
だから、説明が難しい

でも、私はその本を読み終わったとき
なぜ、私がその人に憧れを抱いたのかが
理解できた気がした

その人が書く文章が
どこか寂しげで、それでいてどこか強かったのかも
私なりにわかった気がした


そして私は、それがキッカケとなり
そこから本屋に行っては
タイトルや本の表紙の感じ
1ページ、2ページめくったときの感覚で
本を買ってはスタバに行って読む日々が続いた


思えば、憧れの人に好きな本を聞くのって
個人的には、なんだか失礼かな、なんて
少し思ったりもする

だって、その人のその本は
その人の原点であり、指南書であり
それはきっと、それくらい神聖なモノであって
そして、孤独で溢れてる気がするからだ


私も、本を読むようになったからわかる

本を読んでるときは、なんだか孤独で
それでいて誰にも踏み込まれたくない領域なのだと

だから、本から感じられるモノが
自分の中にストレートに入ってくるのだと



なにかを好きになるキッカケなんて
ものすごく単純だ

憧れの人と同じモノを好きになりたい

それだけなのだ

そして、それが自分の人生が
変わるキッカケになったりもする

人との出会いや会話、経験からしか
人は変われないと思っていたがそんなことはない

人は、本で変われる
たった一冊の、たった一行で
それまでの人生が救われることもある

人とどれだけ話したって
その人のほんの一部しか知ることはできないが
本を一冊読めば
膨大な人生のいろいろを垣間見れたりもする


そして、そこから学べるのだ

それは、そのときの自分が
ちゃんと孤独でいれるのかどうかでも
変わってくる気がする



大好きだったその人とはもうそれっきり
そのサイトももうないし
だから、その人のいまを知ることはないが
それでいいし、それがいいと思っている

憧れは“傷つきたくない”という距離だ
だから、傷つけることもないし傷もつかない

どこまでも尊敬に値するくらいの気持ちで
いつまでもその人のことを想える


その人のおかげで、私は本と出会えた
かけがえのない出会いをくれた

そして、私が文章を深掘りして書けるようになった
その原点となった本にも出会えた
 
それもこれも、大好きなその人のおかげだ
それこそその本は私の指南書なのだ


何度も何度も繰り返して読む本の
そのボロボロさ加減が
私の人生そのもの、生き様があらわれてるのだ
 
 

後で聞いた話
その人は、女性だけど中身が男性だった

憧れで終わったのも合点がいく


ちょっとしたオチである

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