『湘南が遠くなっていく』を読んだ
小俵鱚太さんと榎本ユミさん(#きすたとエノモ)による連作冊子『湘南が遠くなっていく Summer Nude』を読みました。
手元に届いたのはもう随分と前で、今更ではあるのですが……。
『湘南が遠くなっていく』に焦点を当てて感想を書かせていただきます。
舞台は鎌倉、紫陽花の美しい季節に出逢うひとりの男とひとりの女。展開していく物語は、短歌でありながらも、ひとつの映画を観ているような気持ちにさせられました。
というのも、その描写がとても丁寧だから。鎌倉という舞台はもちろん、登場する男女それぞれの人物像があまりにもくっきりと表現されています。
共作でこんなものが作れるのか、という驚きでどきどきし、はじめは読み進めないほどでした。あとがきを読めば「かなり細部まで背景を練りこんで作った」とある。なるほどなぁ、やはりこれは小俵さんと榎本さんによる「物語」なのだと納得しました。
読み進めれば、『湘南が遠くなっていく』は、男女の恋のプロローグからエピローグまでが短歌でつくられていることがわかります。
この構成を意識して読むと、男と女の違いがくっきり見えてきてまた面白いです。
男にとっての過去の恋、女にとっての過去の恋、その違いは最後の5首ずつを読めば明らか……。
勝手に「だよねぇ」なんて共感しつつ女の気持ちを詠う榎本さんの短歌に頷いてしまう。
大人の恋。なんて言葉はなんだか居心地悪いし、ううむと思うのですが、でも、この情熱。そして相反する冷たさはまさしく大人の恋です。
きっとこの後ふたりがまた逢瀬を重ねる、なんてことはないのだろうな。紫陽花の季節の度に疼くような思い出を抱えるのだろうな。そんなふうに空想をしつつ、楽しませていただきました。
余談ですが、六月七日はわたしの誕生日で、どうにもこの短歌が忘れられないのです。
アニバーサリー休暇と有給つなげ取る娘が生まれた六月七日