YCからB2Bスタートアップへ5つの提言
世界的VC「Yコンビネータ」のManaging DirectorであるAnu Hariharanさんから、B2B startupが問うべき5つのテーマをベースに話が展開されます。
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※英語力や理解力不足により省略している箇所や、意訳している箇所が一部あります。
①Is the product good enough?
資金調達できた≠プロダクトが良い証拠
プロダクトを磨く前に資金調達して採用を強化すると危険だ。
プロダクトが本当に優れているかを見極める3つの質問がある。
あらゆる質問が考えられるが、まとめるとこの3つになる。
1 もし明日、そのプロダクトがなくなったらどの程度がっかりしますか?
「とても残念?すこし残念?」の2択。
指標としては、40%以上が「とても残念」と言わないと、十分に良いプロダクトとは言えない。
2 顧客はそのプロダクトをどれくらいの頻度で使うと想定していますか?そして実際はどれくらいですか?
想定より使っていない顧客は解約リスクが高いので、顧客の利用頻度を分析し対処する必要がある。
3 お金で買った成長ではなく、オーガニックに成長しているか?
指標としては例えば以下の2つがある。
・インバウンドリードが一定以上あるか→インバウンド対応チームが足りていなかったらたくさん来ている証拠。逆に月に5件程度であれば不十分。
・アウトバウンドの商談から20%以上契約になっているか
一度ある種PMFしたと感じてしまうと、「プロダクトは十分に良いか?」という問いを忘れてしまいがちだが、毎年、全メンバーに問うべき質問であれる。そして上記含めて、その会社で測定できるめぼしい指標を設けられると良い。
②Many B2B Startups are under pricing
100%のB2Bスタートアップが価格設定を低くしすぎている。
具体例を一つご紹介。
価格はプロダクトの良し悪しを見るための良いテストでもある。プロダクトが本当によければ、それが無くなると顧客は困るので、多少高い価格でも払うはずである。
一つのテストとして「価格を30%上げてみる」というものがある。既存顧客に対して試してみて、顧客が2回瞬きをしない限り、価格をあげても問題ない。
大事なのはこれを「やり続ける」こと。
安心して。YCが見てきた限り、ほとんどのB2BスタートアップはUnderPricingなので。
③Companys can rarely serve all B2B customers well
一口にB2Bと言っても顧客は非常に多岐にわたる。従業員数50名以下のスタートアップ、50~100名の中堅スタートアップ、200名規模の中堅企業、大きなスタートアップ、上場企業など。すべての顧客のニーズを満たすプロダクトを作ることはできないので、セグメントを絞る必要がある。
その時に大事なことは「SMBやスタートアップという言葉を使わない」こと。自分の言葉で、自分たちにとって簡単な顧客は誰かを言語化する。簡単な顧客と言うのは、プロダクトがなくてもMVPのレベルで大喜びしてくれる顧客である。
※ここで出てきた具体例よく分からず
④Early sales should not be delegaterd
Anuさんお気に入りの一つ。
営業がつまらなくなるまで、VP of salesは雇うな。
founder自身が営業する。プロダクトデモをする。100回200回と繰り返しながら、最初の問い①「プロダクトは十分に良いか」を問い続け、製品をブラッシュアップし続ける。あるタイミングでプロダクトが十分良くなり、デモがつまらなくなる。ただの繰り返し作業になる(=プロダクトが良いおかげで、試行錯誤しなくても売れるようになるタイミングが出てくる)。こうなったタイミングで初めて、VP of salesを雇うべきである。
もしそれ以前のタイミングでVP of salesを雇ってSalesチームを作り、チームを組成したが想定より遅いスピードでしか売れないとすると、それはSalesチームのせいではない。プロダクトが十分に良くなかったことが原因なのである。
⑤Plan to reach default alive
多くのスタートアップは外部から資金調達をする。しかし「本当に外部から資金調達をする必要があるか」を批判的に本質的に考えてみると、必ずしもそうでないケースも多くあるはずである。ARRが500~1000万ドル規模になると「default alive」を目指すべきだ。「default alive」とはなにか?
その言葉を知らない人は、ポールグレアムのブログを読むべきだ。上記で書いたようなある程度のレベニュー規模に達すると「いつ黒字化出来るか」を考え始めるべきだ。そう言うと、起業家の中には「VCから資金調達できるのになんでそんなこと考えないといけないんだ」という人もいるだろう。
多くの人は「Fatal Pinch」を知らないのだ。「Fatal Pinch」とは多くの資金を調達し、多くの人を採用したが、成長速度が十分でない(月間10%以下)せいで次の「実験」をするランウェイが十分に残らず、結果として次のラウンドで資金が集められない状況を指す。
一方で採用を最小限にし、underpricingせずしっかりCACを支えられるだけの料金を取り、「資金調達の必要がない」状態のことを「default alive」を呼ぶ。逆説的だが「資金調達の必要がない」ときに資金調達ができるのである。
多くのB2Bスタートアップは12ヶ月に一度は資金調達モードに入り、評価や数字を自慢し評価や数字を自慢しているのが、実はあなたが自慢すべきなのは収益を上げて、収支をプラスにすること。評価額などというのは、何の意味もない虚栄の指標なのである。
2021~2023は、投資を少し抑えて成長が少し鈍化するかもしれない。問題ない。全く問題ない。大事なのは、十年単位で顧客が使うプロダクトを作ることができているかどうかである。
感想、考察
・「価格を上げると何が起こるのか」を妄想してみるのは大事かもしれない。例えば価格を1.5倍にしたとすると、セールスという意味ではこれまでの2/3以上の契約を取ることができれば、売上が減ることはない。そうなると顧客数、商談数、取らないといけないリード数が減るので、その分必要な人員(IS、FS、CS)は少なくなるはず。価格を上げても購入する「ニーズが強い顧客」に絞られるので、やる気や体制、契約後にかけてくれる工数という意味合いではCSにとってもメリットはある。ただ価格が上がっている分、更新するハードルや難易度は比例して増加する。人数を減らすことができれば一人あたりのARRやCS一人あたりのARRが増えるので、その分valuationは上がる。結果ダイリューションを抑えて資金調達することができたり、同じダイリューションでより多くの資金を集められたりする。
こう書いてみると、メリットがかなりあるように感じる。ただ大きな論点は「(1.5倍にしたとき)本当にこれまでの2/3以上売れるのか?」というところ。
競合とコンペになると、これまでより勝率ががくんと下がる可能性がある。コンペのときは通常価格、そうでないときは1.5倍、など出し分けするのはありかも?ただいずれにせよ、価格による弾力性を実験する価値はありそう。(価格以外の要素もたくさんある中で評価がかなり難しそうではあるが。。)
実験のイメージは、数を集めて統計的にというよりかは、(見込み)顧客の決裁者レイヤーに踏み込んでヒアリングするイメージか。「XX円だったらどうなっていたと思いますか?」的な。
「プライシングは永遠のテーマ」という言葉を聞いたことがあったけど、こうやって改めて考えるとそれが意味するところが少し理解できた気がする。プライシングは売上だけでなく、採用にも調達にも影響を与える。
・「セールスが退屈になるまでVP of Salesを雇ってはいけない」は面白い。Layer Xの福島さんも「まず100社にヒアリング(営業)しよう」と言っているが、初期に代表が営業して、単に売るだけではなくプロダクトへのFBをたくさんもらって反映させる、というフェーズは非常に重要に感じる。
・「プロダクトが十分に良いか?」は永遠のテーマ。Anuさんが挙げている3つの質問の中で、最初の2つ(①明日それがなくなるとどれくらい残念?②どれくらい使っている?)はCS観点というか、契約後に実際に製品を触った後のフェーズ。3つ目の「どれだけインバウンドが来ているか/商談の成約率はどれくらいか」はマーケ、セールスフェーズ。これらは共通部分ももちろんあるが、分けて考えた方が良い気がした。前者は本当にプロダクトとしての価値と、CSによる顧客へのデリバリーのクオリティ。後者は製品のコンセプトや売り出し方のクオリティ。極論製品がダメでも、コンセプトやデモが素晴らしければ後者は達成できる。