エッセイ 「ブランデンブルク門にて」
エッセイ 編集途中
ドイツには2回だけ旅行したことがある。ミュンヘンとベルリン。
今回も学会参加を兼ねたベルリンへの出張旅行なので、「旅」ではなかった。だが、往復のフライトと宿だけは決め、現地のスケジュールは適当に現地に行ってから考えるのだから、半分は「旅」みたいなものだ。
さて、当日は日本から参加しているドクターが集まる食事会があった。誰かがレストランを予約してくれて、場所と時間が決まっていて、お誘いがくればエントリーしてそこに集まる。◯◯の会などと言う大袈裟な集まりではなく、緩い会食だ。
当時はすでにGoogleの位置情報と地図検索情報が誘導してくれる時代に入っていたので、携帯と財布だけ持って宿を出た。ホテルの前でタクシーを拾い、店の住所をドライバーに見せて出発。便利な時代になったものだ。
時間にはゆとりを持って出発したから、早めに到着する予定だった。途中でブランデンブルク門が見えたので、そこでタクシーを降りて、ブランデンブルク門を見学して、徒歩で店まで向かうことにした。
徴税門のひとつであるこのライトアップされた門は、高く壮大で美しく、圧倒される。厳格な徴税のためにベルリンに、権威を前面に押し出し通過する者たちを威圧する門が必要だったのかもしれない。
徴税門の上にある戦の女神、ヴィクトリアが乗る4頭立ての馬車(クアドリガ)が目を引く。駆けている馬たちのそれぞれ動きの一瞬を写真のように切り取った銅像。銅像に時間を封印し、時間を止めることで馬の動きを表現した作者の企みは、見事に成功していた。
明日、昼間のうちにもう一度、あのクアドリガを見に来てみようと思いながら、その場合を離れてレストランに向かう。少し時間に遅れそうだったので急いで歩いた。10分程遅刻して店に飛び込み予約を確認して貰ったが該当するグループは無いとの事。このレストランには系列店があるのでそこではないか?と聞かれた。
慌てて、グループの取りまとめ役に電話をかけると違う場所にある同じ名前の系列店だとのこと。遅刻する事を伝えると、系列店に向かった。生憎タクシーが捕まりそうもないので、携帯の地図を見ながら走った。
その時頭に浮かんだのは、女神ヴィクトリアが操る馬車、クアドリガだった。女神の横に並び、拳を振り上げて吠え、女神と共に民衆の声援に応える自分だった。
結局、タクシーは拾えず、クアドリガも現れず、1.5キロを走り、30分遅れで目的地に到着。
上着1枚だけでは肌寒さを感じる気候の秋のベルリンを走って汗をかいた自分。
店のドアの前で息を整えながら、あの雄壮なクアドリガと軍神ヴィクトリアを思った。
俺はクアドリガに乗る神ではなくて、あの4頭のうちの1頭だったのか!と。
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