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小説 「任侠バーテンダー 入舟源三」 その③ お嬢様からの難題

入舟源三は65歳の前期高齢者のバーテンダーである。12月25日が誕生日。
源三はこんな自分がキリスト様と同じ誕生日なんて、皮肉なものだと思う。
若いときに少しばかりグレていて、ヤクザになった先輩の使いっ走りをしていたのだが、組の盃は受けていない。源三の組は暴力団ではなく、テキヤの元締めだったので、喧嘩ではなく任侠道を叩き込まれた。
バーテンダーの仕事は30歳過ぎてからとある場末のバーの見習いで入った。10年ほど修行してからこの店に移った。この店で5年働いた時に、オーナーバーテンダーから話が出て、店を引き継いだ。



源三は店の支度を済ませて、客が来るのを待っていた。だが、今夜は商店街の常連連中は新年会で焼き鳥居酒屋の「かざみどり」に集まっていて、まだ流れてくる時間ではなかった。

源三に限らないがバーテンダーが手持ち無沙汰の時にする作業は決まっている。ロック用のアイスを作るかグラスを磨くことだ。丸氷を仕込む作業は結構時間がかかるのだが、今日は暫く暇そうだとみて、源三は大きな角氷の角をペティナイフで削りはじめた。客が居ない時のこの作業は集中できるのでいい暇つぶしになる。

オンザロック用の氷をひとつ丁度完成させた時に、マナーモードにしていた携帯が鳴動した。
表示は《白川のお嬢》
源三は、氷を置いて手を拭くと電話に出た。

「ご無沙汰してます」
「ご無沙汰どころじゃないでしょ!」と相手からいきなり怒鳴られ、顔をしかめる。

電話の主《白川のお嬢》こと白川夏美は、源三が関わっていた小さな組の若頭の娘だった。
源三より20歳ほど年下になる。

夏美は、堅気のサラリーマンに恋をして、駆け落ち同然に結婚した。父親の白川雄一が認めた相手でなければ、結婚できない筈だったので、娘は非常手段に訴えたのだった。雄一は娘が好いた相手なら仕方がないと、二人の結婚を追認した形だった。
ところが二人の結婚生活は半年で終わってしまった。どうやら甘やかされて育った夏美の金銭感覚に相手がついてこれなくなったらしい。

結局のところ夏美が「結婚なんてつまらない」と宣言して家庭を飛び出し、正式に離婚となり終わった。
父親が心配した「果たして堅気との結婚生活が上手くいくのだろうか」と言う懸念は半年で結果が出た訳だ。
夏美は今は地元でスナックだかラウンジだか飲み屋を経営している。

「顔だしてなくてすいません。店の景気の方はいかがですか?」と挨拶すると、「イカがもスルメもないでしょ?コロナからこっちは、さっぱりだよ」
「お嬢、上手いこと言いますね」と吹き出しそうになるのを抑えた。

「またぁ!〈お嬢〉は言うなって言ってるでしょ!ねえ源ちゃん、たまには顔出してよ」
「はい、近いうちに伺いますんで。ところで、おやっさんはお変わりないですか?」と気になっていた事を訊いてみる。
「あー。オヤジねぇ。身体は元気なんだけと、ちょーっと認知症がヤバいかも。それがあって電話したのよ。源ちゃん、一度、こっちに来てよ」
どうやら夏美の所に顔を出さないと拙い雲行きだ。
「へえ。分かりました。今月中には伺うようにしますが、なにぶん店がありますんで」
「わかったよ。じゃあさ、うちの店じゃなくて昼間でもいいからさ。電話で話しもなんだから、こっちに顔出せそうな時に連絡おくれよ」
「はい。じゃ、改めてご連絡いたします。失礼いたします」と言って、通話が終わった。



源三は携帯をカウンターに置くと溜息をついた。
「お嬢」には振り回された記憶ばかりだ。源三が、まだ組の使いっぱしりをしていた頃の事を思いだす。当時、源三は夏美のお守りをさせられていたのだ。

若頭は、「夏美を身内に任せる訳にも行かないから」と屁理屈をつけて、夏美が中学生の時分から源三に護衛をさせていた。

夏美の学校は私立の女子校だったので、源三は毎日、髪をきちんと整えて、堅気の運転手のような出立ちを装った。真面目そうに見えたせいか源三が送り迎えしても、学校から不審がられるような事はなかった。
源三は若頭の奥さんの高級車を乗り回せて、オマケに小遣いも貰えると喜んだ。

夏美が大学生になると、流石に毎日の送り迎えはしなくてよくなった。若頭が親分に昇進したので、警備会社と契約して正式なボディーガードを雇ったからだ。だが、それからも、夏美からは用事を言いつけられることはあった。

やれ、「買い物に行くから運転して」とか、「親に内緒でサークルのコンパに出たいから、一緒にいたことにして」とかを頼まれたのだ。

挙句の果てに「今夜はカレシと過ごしたいから、朝まで原ちゃんとドライブしてた事にしてよ」と言われた時には「そ、そんな事したら、オヤジから半殺しにされます。勘弁してください」と泣きを入れて断ったこともある。
今度はいったいどんな無茶振りをされるのだろう。源三は新しい氷を取り出すと、丸氷造りに集中した。



夏美から電話があった翌週の日曜日。

源三は時間を作った。夏美の住まいは知らなかったが、実家の近くのマンションに住んでいるらしい。夏美の指示どおり、自宅ではなく夏美の店の最寄り駅に向かっていた。

駅に着いたら連絡するように言われていたので、電話をいれてみた。
「あ、源ちゃん?今、駅ね?北口駅前のロータリーに面して、なんとかって言うファミレスが見える?」
「あ、はい。デリーズ、ですかね?」
「あ、それ。そこでちょっと待っててくれるかしら?」
「はい。そこでお待ちします」
「じゃ、あとで」と電話が切れた。

源三は、ファミレスに入ると、コーヒーとサンドイッチのセットをオーダーし、文庫本を広げて夏美を待った。
こういう場所での待ち合わせは苦手だった。
いつも入り口が見える席について、異常がないか監視する癖がついているので、ついつい目つきが悪くなり、周囲に警戒されてしまうからだ。今日は護衛ではないので、読みかけの本に集中して、気配を消すようにした。

コーヒーを飲み、サンドイッチを二切れ食べたタイミングで夏美が現れた。

夏美は、白いウールの上品なコートに身を包んでいた。化粧もいつもの艶っぽい夜の戦闘モードではなく、上品なナチュラルメイクだったので、どこかの美人の奥様が現れたような雰囲気だ。

夏美は源三を見つけると、小さく手を振ってテーブルに寄って来た。
源三は立ち上がり「ご無沙汰しております」と低い声で挨拶した。
「こちらこそご無沙汰しております。今日は、ご足労いただいてありがとうございます、お世話になりますわね。よろしくお願いします」と、いつもより高いトーンで言いながら夏美が頭を下げた。
いつもとモードが違う。店でママをしている時とは雰囲気がだいぶ違うので戸惑う。どうやら、ひと目を気にして、堅気を演じてるのだと気がついた。
「入舟さん、どうぞ、お座りになってください」と言われたのだが、どうも勝手が違う。焦って座ろうとした源三は、膝を思い切りテーブルにぶつけて夏美に笑われた。

座ってからの二人は声を落として会話する。
〈夏美さん、どうしちゃったんですか?〉
〈こんな時間に夜の格好で来ると思ったの?バカね。〉
〈ああ、そうですよね。分かりました。話しを合わせます〉

源三は「ところで、何かオーダーしますか」と聞いて二人の会話のトーンが急に戻る。
「そうね。それでは、私、カフェ・オ・レをいただきますわ」
「それでは店員を呼びましょう」と源三が手を挙げようとすると
「入舟さん、このボタンで呼べますのよ」と、夏美は自から店員呼び出しスイッチを押す。

追加のコーヒーと夏美の注文したカフェ・オ・レが運ばれてきて、夏美の父、白川雄一の話になった。
「おやっさんはお変わりないんですか?」
「お陰さまで、身体の方は元気なんですが。。。母が亡くなってからは、やはり気持ちの張りと申しますか。。。って、あーまどろっこしい。声を落として話すから、テキトーに相槌打って聞いてね」夏美の口調が途中から変わる。名家の奥様モードから、いきなり若頭の我儘なお嬢様当時のヤンチャな会話モードに変更された。

〈オヤジは元気なんだけどさ、もう85歳になるのよね。組の方はとっくに引退したのは知ってるでしょ?やっぱり、少し呆けてきてると感じるのよ。一応、組から相談役の会長っていう名前はもらってるけど、もう実質は引退の身だから〉
〈もう、そんなお年でしたか。まあ、自分も役所から前期高齢者ってお墨付き貰う年だから、そうですよね。で、今はご自宅はあのままですか?〉
〈ああ、もうあの家は売っぱらって、今はマンションでひとり住まいよ。私も昼間は、様子見に行ってるけど、掃除とか食事とか入浴の介助?に来てもらってるの。でも、だんだん悪くなってる気がするよ〉
「ああ、それはご心配ですね」ウェイトレスがコーヒーのお代わりを持ってきたので、源三は口調を変えた。
「それでね。介護施設でしたっけ?父が入居できそうな所があるか調べてみたんですの」
「老人ホームのことですね」
ウェイトレスが移動したので、口調が変わる。
〈そう。それ。お客で介護関係の人が居たからさ、訊いてみたのよ。したらさ、「いやぁ、夏ちゃんの親父さんて、組関係でしたよね?何とかしてあげたいけどそれ、ちょっと難しいかも」とか言われちゃってさ〉
〈不味いんですか?〉
〈先ず、反社だから、契約が難しいらしいのよ。しかもうちのオヤジって、ほら、立派なアレを背中に背負ってるでしょ?入浴介助とかで問題になるらしいのよ。公衆浴場だって、ご遠慮くださいって言われる時代じゃない?〉
〈引き受けてくれそうな所がないんですね?世の中、LGBTQだとか多様化だとか、差別しちゃいけないなんて格好のいいこと抜かしやがるのに、こいつは差別なんじゃねーんですかね?〉
〈うちの組は、暴対指定じゃなかったけどさ、世の中、うちらの業界は一派一絡げで毛嫌いされてるからね〉
〈まあ、世間はいいイメージは持ってないですよねぇ〉
〈まあ、因果応報ってやつ?仕方ないのかもしれないけど、ヤクザの人権も認めてくれっつうのよ!〉
夏美はかなりアタマにきているようで、だんだん声が大きくなってきた。店内は閑散としているが、これ以上、夏美が興奮すると他の客の注目を集めてしまいそうだ。源三は口調を改めて言った。
「それでは、白川様、ご希望に沿うように対策を考えて、後日ご報告させていただきますので、今日のところは以上でよろしいでしょうか?」
「ええ、本当にご面倒をおかけいたします。入舟さま、どうぞ宜しくお願い申し上げます」と、良家の奥様に化けた直したのがおかしかった。

夏美と別れてから、源三は帰り道ずっと考えていた。世話になったオヤジをいい介護施設に入れてやりたいが、やはり彫り物が入っていると難しいと思う。入浴時だけなら、時間をずらすように工夫してもらう手もあるだろうが、白川の場合、腕にもしっかり刺青は入っている。源三はおやじの現役の頃の事を思い浮かべた。白川は隠すべき場面では夏でも七分袖のシャツを着て隠すようにしていた記憶がある。

レーザー治療だかなんだかで、彫り物を消す方法があると聞いたことがあったが、彫り物はスジ者の誇りなのだ。おやじを説得して、消させるのはしのびない。

源三はどうしたものかと頭を抱えた。



翌日、月曜日。
開店はしたものの、9時すぎまで暇だった。

その日の口開けの客は、介護士の順ちゃんだった。いつもの様にハイボールを出してから、世間噺のついで、と言う体でそれとなく相談してみた。

「うーん。難しい問題ですね、それ」
「やっぱりそうだよなぁ」
「うちの施設でも、元職人さんで、スミ入ってる人がいたんですけどね。所内で入居者どうしで揉めたときにその人が肩脱ぎして凄んじゃ居ましてね」
「そりゃ不味いね」
「入居者だけでなく、家族の耳にまで入ってしまって、クレームが来ちゃいました。ヤクザが居るような施設には預けられないって、何人かの家族が所長を吊し上げに来ましたよ。。。」
「やっぱり、ヤクザじゃ無理かね」
「まあ、その人の家族には事情を話して、系列の別の施設に移ってもらいましたよ」
「それで収まったんだね」
「まあ、同じ施設内でも区画を分けて、隔離でもできればいいのかも知れませんけどね」
「コロナの時の隔離病棟みたいにか。。。」
「普通、施設では、男女だってフロアを分けたりはしてないですからね。スミが入ってる人だけ隔離して分けるというのも難しいですし。。。」
その時、源三の頭の隅に閃いたことがあった。
「隔離。隔離。それだ!それだよ!」と叫ぶ。
「順ちゃんありがと!ハイボールもう一杯飲んでくれよ。店の奢りだ!」




それから源三は、昼間にいろいろな所に相談に行った。マンションの物件を調べたり、税理士や介護施設関係者とも相談したりしていた。
幸いバーテンダーの仕事は夜が中心だから、本業に影響するような事はなかった。
源三にはどうにか解決策が見えてきた。



夏美から相談された日から半年が経過したある日のこと。

白川雄一は、夏美の押す車椅子で移動し、手入れの行き届いた庭を散策しながら花を眺めていた。源三も付き添っている。

夏美がしみじみと言う「源ちゃんから聞かされた時には、そりゃ無理だと思ったのよ」
「まあ、自分も無理かもと思った時もありましたからね。でも、丁度、いいタイミングで人手不足で倒産した物件が出てきましてね」
「それから、トントン拍子って訳ね」
「はい。まあ、運営者、管理者、職員も継続したいニーズはあったんでしょうね。でも入居者は全員他の施設に移った後でした」
「まあ、一番の問題は出資者探しだったんでしょ?」
「まあ、それも運が良かったんですよ」

源三たちが居るのは、「エンジェルホーム」と言う老人介護施設だ。もともと介護施設だったのだが、人手不足で倒産した法人だった。
これを大手の組のフロント企業に買収を持ちかけた。そうして負債を肩代わりさせ、建物ごと買い取らせたのだ。そして、元の職員に声をかけて再雇用し、施設を復活させた。
更に、前科まえがあるなど、一般企業には就職できないような裏の事情を抱えた人材や、暴走族としてヤンチャしていたレディースなども介護士の補助員として雇いいれた。そうやって人材のテコいれをしたのだ。
しかも、介護職やケアマネなどの資格取得を希望する者には、無料で資格が取れる制度も導入した。人材は豊富だったので、仕事は前にいた時よりも楽になったので正規の介護士たちには、他の職場より働きやすいと好評だっだ。

「源ちゃん、入居者もよく集まったもんだよね」夏美が源三の横顔を見ながら言う。
「そりぁ、高齢者が増えてますから、その中でオヤジさんみたいな特殊な事情を抱えた高齢者も増えてくるじゃないですか」
「まあ、ヤクザの情報網を使えば、引退した幹部のリストを作るなんて訳ないもんね」
「ええ、今の親分には、その辺り、大変お世話になりました」
「ニッチな分野で勝負する介護ビジネスってことね?」
「ええ、まあ、皆さん、金には不自由しないお客さんですから」

朝礼が終わったらしく、作業着を着たガーデニング担当のスタッフが、道具を持って庭に移動してきた。
「白川様、おはようございます」
「おうよ!若いの、朝から精が出るねぇ。綺麗に手入れされてるじゃないか。ありがてえ。宜しく頼むな」と雄一が答える。

ここに入居を決めた時には「夏美、老人ホームなんて、勘弁してくれよ。こんなとこに押し込められたら、懲役ムショより質が悪りぃぜ」と抵抗したオヤジだった。だが、ここに入ってからすぐに白川のまだらぼけに変化が起こり、改善してきたのだ。
自分の家で一人暮らししているのと違い、ここでは会話する相手が沢山いるからだろうと、源三は考えている。


天気が良いので、個室からテラス席に出てきた入居者たちが雄一に声をかける。
「おーい、白川の!早くこっち来なよ。勝負始めっちまうぜ」
「おうよ!いま、行くからよ。首を洗って待ってろよ!」と応じる。
源三は雄一の車椅子を押して、テラスに移動した。

メンバーはそれぞれ配られた花札を広げて、手を真剣に考えている。
「おう、白川の。そいつはおメェんとこの若い衆か?」と一人が聞いた。
「いや、こいつは、若いとき、ちょっとヤンチャはしてたけど、立派なカタギだよ。ちゃんとバーテンダーやってるやつだよ」
「おー、バーテンか。いい面構えしてやがるから、てっきり組のもんかと思ったぜ」
「入舟源三と申します。おやっさんには、若い時に縁あって、大変お世話になりました。今はしがないバーテンダーです。以後、お見知り置き、お願い申し上げます」と源三が挨拶する。
「ほう、ちゃんと挨拶できてるやん。あんちゃん気に入った」と、関西弁の入居者が声をかけてきた。
「なあ、若いの、今度、ここで出張バーテンダーやらんか?」と別の入居者からも声がかかる。
「え、自分が?こちらでですか?」
「そうや。ここな、ねーちゃんは生きのええのが揃ってるんやけどな。ほら、レディース出身やさかい。セクハラ発言にも強いしな」
施設内にカクテルラウンジがあるので、そこで介護士の補助業務の他にアルバイトで接客もするらしい。
「けどな、まあ酒が不味いんでな。まあ、暇な時に、イベントでいいから、ここでバーテンダーやらんか?」と白川のオヤジが補足する。
「あら、私でよければ、ここでママやってもいいわよ」と夏美がまぜっかえす。
「ダメだよぉ。お前に監視されながら呑んだら、美味い酒も不味くなっちまう。勘弁してくれよ」とオヤジが言い、全員が爆笑した。

花札の手札を配りながら「ここはいいよなぁ。差別も抗争もないからなぁ」と、メンバーの一人がしみじみ言った。
「まあな。ここがツイの棲家ってことや。平和で有り難いこっちゃ」
「今更、そんなんで早死にしたら、高い入居金が勿体ないからな。長生きしなくちゃな」と白川が笑った。
「ほな、次の勝負いきましょか?さあ、次の親はわしやからな」と場を仕切る関西の元親分が声を上げる。

ニコニコして花札博打に興じる、父親の笑顔を見ていた夏美が源三に向かって微笑んだ。
「源ちゃんありがとうね。やっぱり源ちゃんに相談したら、何とかしてくれると思ったの。有り難くて、涙が出そうよ。源ちゃんに惚れ直しそうだわ」と言いながら源三の腕を引き寄せ、腕を絡ませる。
「いや、自分が世話になったおやっさんへの恩返しみたいなもんですから、当たり前です」と言いながら、源三の顔は赤くなっていた。

介護士の順ちゃんの一言「隔離」で閃いたアイデアだったが、上手く行ったと思う。カタギの中にスジ者や気質の荒い元職人が混じると、何かとトラブルの元になる。だから、そういったワケありの者をカタギから隔離してしまえばいいのだ。
ついでに、職員も、ワケありを集める。偏見があってなかなか就職先が見つからない、ワケありの若者を集めるのだから、求人には苦労しない。ワケあり職員をカタギの世界から隔離してやれば、彼らも働き易いはずだ。なんなら、世間の鼻つまみ者が、介護士の資格を取得するチャンスにもなる。
ここの入居者は、礼節に厳しい高齢者が揃っているので、職員は顧客からロハで日々接遇研修を受けているようなものなのだ。

源三は、入居者たちの明るい笑顔を眺めながら、ここでバーテンダーをやるのも悪くないかと思った。


「任侠バーテンダー」今回はこちらのMossさんの「鉄筋老人コンクリート」を読み、閃いたアイデアです。






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じーちゃん こと大村義人(ペンネーム )
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