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本にまつわるエトセトラです。
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2019年6月の記事一覧

『泣く大人』−大人になってわかること−

はじめに 10代から20代始めにかけて、私は江國香織さんの作品をむさぼるように読んでいた。個人的に江國さんの代表作だと思っている『冷静と情熱のあいだ rosso』は、内容を空で言えるくらいだし、映画も何度も観たし、なんだったら小説の舞台であるイタリアにも行った。映画のサントラを聴きながらフィレンツェの街を歩き回った経験があるくらい筋金入りのファンだ。 でも今日紹介するのは、江國さんの小説ではなくてエッセイ。私は江國さんの小説もエッセイも同じくらいすきだ。特にエッセイは書き手

贈り物

人生で初めて読んだ本はなんだろう。 思い出そうとしてみたけれど、わからなかった。 本にまつわる記憶で覚えているのは、 ・小さい頃、寝る前はいつも父にすきな本を読んでもらっていたこと。 ・小学生のとき、毎日のように学校の図書館に通っていたこと。 ・初めて自分で買った本は、青木和雄作『ハッピー・バースデー』だったこと。 ・小中高通して、月に何度か市立図書館に連れて行ってもらっていたこと。 ・両親の読書する姿を目にして育ったこと。 ・誕生日プレゼントには、いつもすきな本を買っても

絵にまつわる記憶たち

 作家である江國香織さんは絵についてこんなことを言っている。  私はよく、絵がかけたらいいなと思う。絵は、ただそこにあるだけのものを、ただそこにあるだけの風に描ける。文章ではそうはいかない。  そんな江國さんが古今東西27人の画家の作品をとりあげて書き上げたエッセイ集が『日のあたる白い壁』だ。  この本を通して知ったことはたくさんある。  ゴーギャンの描くオレンジがいかにおいしそうかとか、『民衆を導く自由の女神』を描いたドラクロワの素朴で愛らしい花の習作とか、ゴッホの『

憧れの向こう側−10年越しの夢の先にあったもの−

■プロローグ来た。ついに来てしまった。10年以上憧れ続けたこの場所に。いつか大切な誰かと来るのだと信じていたこの場所に、私は今、一人で立っている。 ■旅の始まりこの旅はきっと、初めてこの場所を知った10代半ばの頃から始まっていた。『冷静と情熱のあいだ』。1999年に江國香織・辻仁成の両名によって小説が発表され、2001年には竹野内豊とケリー・チャンが主演で映画化されたこの作品。この作品の中で主要な舞台の一つがイタリア・フィレンツェ、さらに言うならフィレンツェのドゥオモことサ