三人家族最後の夜
なんて大げさに書いてみるけど、今日も明日も実質母と私の二人暮らしということは変わらない。
明日、父が特養に入ります。コロナ禍で一年以上、老健施設にお世話になっていたけど、5類になったので出入りが可能になったと。要はもうリハビリ期間である3ヶ月なんてとっくに超えているので、次の必要とする方に場所を明け渡さなければいけない。
具体的にこの話が出始めて、初めて、ああそうか、もう父は家に戻って来られないのか、と知った。「いつかは」と思っていたけど、その「いつか」は「いつか戻ってくる」なのか「いつか一緒に暮らせなくなる」なのか、どちらの意味で思っていたのか、自分でもわからない。
戻ってきたら来たで大変。前より自分で出来ることは少なくなっているし、一時期みたいに移動も排泄も手伝うことになるのかなあ、私も母も仕事があるのにどうすればいいのかなあ、とぼんやり考えていた。また理不尽に怒鳴られたり叫ばれたりして泣くのかなあ、と。
それが特養に入居希望を、という話が出て、初めて、ああ、他人から見てももう自宅で面倒見るのは無理なんだ、と自覚した。母との二人暮らしは静かで、楽で、こんなご迷惑かけたらしいと話を聞いて二人で落ち込んだりしたけど、夜中に怒鳴り声や落下音で起こされなくなったのは有難かった。
そんなこと思ってるくせに、いざそうなったら「お父さん帰ってこないんだ」とぽっかり穴が開いたような気持ちになっている。笑ってしまうほど身勝手である。
いろいろ準備を進める中で、老健施設よりも特養は制限事項が少ないと知り驚いた。そして「特養は生活の場だから」と何度も聞かされた。だから明日からは父の「家」はあの特養になるのだ。だから今日が、父が自宅にいないのは今日も明日も一緒だけど、今日が三人家族最後の日。
老健施設にいる間、直接の面会が一度も出来なかったから、毎週手紙を書いた。数えたら63通だった。父親にこんな数の手紙書くこと、人生である?これはこれで貴重な期間だったのだ。返事なんてほとんど来なかったけど、書く内容もお向かいさんが引っ越したよとか家の近くで自動車事故があったよ怖いねとか、どうでもいい話題だけだったけど、一年と少し、父と文通?をして、それを最後に二人家族に変わる。
とても静かな夜だけど、家族の形が変わる、とても大きな節目の夜だ。