「カモン カモン」/ マイク·ミルズ監督 / 2021 /アメリカ
独身中年男が、妹の9歳の息子を預かって心を通わせていく話。映画はモノクロで、ホアキン・フェニックスが子どもたちにインタビューするドキュメンタリーのシーンと甥っ子との会話と妹や同僚との電話のシーンと、派手なシーンはないのですが、ところどころに挟まれる無音の記憶の欠片のようなシーンがとても重要です。そういう意味では、映画でしか描けなかったのかもしれません。。
預かった、聡明だけどちょっと面倒くさい甥っ子のジェニーが伯父のジョニー(名前がややこしい)が疲れて休んでいる間に、普段はマイクを向けられるのを拒んでいたのに、自分でマイクに向かってインタビューに答えるという形でこう言います。。
Whatever you plan on happening, never happens. Stuff you would never think of happens. So you just have to... you have to come on, come on, come on, come on, come on…”
未来は計画や予測どおりなことなんて起きない。思いもよらないことが起きるんだ。何でも来やがれ、前に進んでやるさ!さあ、行くぜ!
私はジェニーがこう言っているように感じました。
ジェニーは、小さいながら、いつかお父さんみたいに双極性障害に陥ってしまうのではないかという不安を抱えていますが、ジョニーは大丈夫だと慰めます。。ジョニーが、とても優しいし、忍耐強く甥っ子に接し、お世話をしています。怒ってしまった時には凄く反省します。私は自分と比べて、自分の子育てのダメさ加減を痛感してしまいました。。
この作品をみて、ヴィム・ヴェンダースの「都会のアリス」を思い出したのですが、公式サイトをみたら、監督は「都会のアリス」をリスペクトした、と書いてありました。アリスが町中で姿を消して主人公が慌てるシーンとか、歯磨きのシーンとか。重なるシーンがいくつかありました。
そして、最後、アリスと主人公が乗り込んだ列車の窓から、2人で身を乗り出して外を眺めるシーンがあるのですが、カメラが引いて上空から2人を写すシーンに変わり、まるで神様が2人を見守っているように感じます。駅に着くと2人は別れてしまう未来も神様は優しく見守っているように感じるのです。
「カモンカモン」でも、ジェニーとジョニーが別れる場面を遠目から撮影しています。それは監督の優しい視線のようでもあるし、神様の視線のようにも感じます。
この作品は、評価が分かれるようで「つまらなかった」と感じる人と「凄く良かった。涙がでた」と評価している人がいるところが興味深いです。。
映画はラスト一瞬水色の画面になります。そこに「〜に捧ぐ」と書いてあるのですが、インタビューに答えた子どもの一人が、街角で流れ弾にあたって亡くなったのだそうです。涙色のようでもあるし、明るい空の色にも感じるその一瞬は、監督なりの追悼なのだと思います。