【読書記録】森沢明夫『水曜日の手紙』
図書館で、題名と装丁に惹かれて手にした本。
森沢さんの本を読むのは初めてだった。
まず、冒頭の4行に心打たれる。
ワクワクさせてくれる物語のはじまりだな、と思った。
登場人物の1人、井村直美は、日常で感じた毒をひそかに日記にしたため浄化している2児の母。
彼女が抱く毒の感情の中には、「あー、わかるかも」と思わず共感してしまう部分があった。
特に、のんびりとした性格の友人・伊織の、悪意のない発言の数々。
悪意がないとわかっているからこそ、イライラしてしまう。そんな経験が私にもある。
物語の後半、伊織の抱えている事情を知り、ハッとする直美。
自分の発言が、伊織を知らず知らずのうちに傷つけてしまっていたことに気がつくのだ。
これは、現実でも容易に起こりうることだ。
私も誰かのことを知らず知らず傷つけてしまっているかもしれない。
そして、おそらく相手の知らないところで、私も割と傷ついてきた経験がある。
「あの人はどうしてあんなことを言ったのだろう?」と、来る日も来る日も考え続けたことだってある。
どんなに傷ついたか知ってほしい、謝ってほしい、なんて思わない。それは傲慢だと思うから。
ただ、自分は誰かにそういう思いをさせないようにしたいとは思う。言葉の力は偉大だから。どうせなら、他者に対しては特に、プラスが生まれる言葉を使うべきだと思うから。
直美は、伊織を傷つけた自分に気がつくことができてよかった。同時に、言葉の力についても考えるきっかけになったはずだ。
全体を通して、登場人物の心の機微が絶妙に描き出された、とてもやさしい物語だった。
「そういう決意もアリだよね」と参考になるものもあった。
さっそく、他の森沢作品にも触れてみよう。
ワクワクが増えて嬉しいな。