暮らしのそばにある植物でつくられた入浴パック「野ノ湯」を紹介します
1. 野ノ湯ってなあに?
「ののゆ」なんともかわいらしい響きを持つこの商品の正体は、わたし達の暮らしのそばにある植物で作られた入浴パックです。今や、銀座にある広島のアンテナショップに売っているほど人気のある野ノ湯ですが、最初から入浴パックを作ろうとしたわけではなかったそう。草木染めの材料として集めていた植物の香りがとても良く、だったらお風呂に入れてみない?という素敵な思いつきから商品化に至りました。
野ノ湯に入っている植物は、野ノ湯を作る広島ひかり園内で収穫したものに加え、顔の見えるお付き合いをしている農家さんから集めた安心できるものばかり。ビワ葉やバラの花をベースに、夏はスペアミント、冬はユズなど、季節によって中身が変わるのも魅力です。
集めた植物は、きれいに洗われ、手作業で下処理をしたあと、しっかりと乾燥させます。季節の香りと植物の色が楽しめる野ノ湯は、広島ひかり園で暮らすみなさんの丁寧な手仕事で作られています。
2. 野ノ湯をつくる場所、広島ひかり園
広島の観光名所といえば、海に浮かぶ朱色の大鳥居が有名な厳島神社ではないでしょうか。広島ひかり園は厳島神社で有名な廿日市市の郊外にある、身体に不自由がある方の生活の場であり仕事の場でもある施設です。
広島ひかり園は脳性麻痺障がいがある方々が自ら働きかけ、1968年に誕生しました。建物の中はひかり園という名前の通り、たくさんの窓から陽の光が差し込み、通路は車いすがスイスイ通れるよう広々としています。
入居者のみなさんの平均年齢が65歳以上ということもあり、日中の過ごし方は様々です。テレビを見たり仲間と麻雀をしたりしてのんびり過ごす人もいれば、建築資材の組み立てや自主製品の軍手づくりといった仕事に勤しむ人もいます。
軍手の口をミシン掛けする音が小気味良くひびく仕事場の一角で、野ノ湯は作られています。
*脳性麻痺とは、妊娠中から生後1カ月の間に赤ちゃんに起こった脳損傷が原因で、手足などの硬直や自分の思い通りに動かしにくくなるといった、運動麻痺となった状態のこと。
3. 野ノ湯をつくる人 --湧広さんと石田さん--
野ノ湯は優しい笑顔の湧広さん、ムードメーカーでもあり若手エースでもある石田さん、そして職員の日向さんによって一つひとつ手作業でつくられています。
湧広さんは、中学校を卒業して、すぐに入所された広島ひかり園の大ベテラン。野ノ湯づくりに携わる前は、シンビジュームという蘭を育てていたこともあるそうです。この日は、園の敷地で育てたマリーゴールドの花びらだけを外す作業をしていました。
「仕事はおもしろいよ。やりがいがある。今日は、カタツムリと戦争しよるよ。」
マリーゴールドの花びらの裏には、時々、黒ゴマのようなカタツムリの糞がついていました。カセットテープをイヤホンで聴きながら、一枚一枚花びらを確認し、きれいな花びらだけを残す作業を黙々と続ける湧広さん。1日の作業が終わったあとは、左手がマリーゴールド色に染まっていました。
平均年齢が65歳を超えるひかり園で、50代の石田さんは若手で期待のエース。仕事はどうですか?と尋ねると、「右手のリハビリ」という答えが返ってきました。クッション性のある帽子をかぶる石田さんの前には、「立つ禁止」と書かれたポップが……?「立つ禁止」の裏側を少しだけ伺いました。
「昔と同じように生活がしたい、それだけなんです。ひかり園は、身体障がい者の施設じゃないですか。ひかり園におるということは、自分が身体障がい者ということじゃないですか。ぼくは、自分が身体障がい者ということに納得できない。」
石田さんの抱える体の不自由さは、生まれつきではなく、20代の事故によるものだそうです。リハビリをして早く歩けるようになり、自由な生活を取り戻したいという思いから、作業中に車いすから立ち上がり、自分でリハビリを始めることがあるのだそう。「立つ禁止」のポップは、石田さんのはやる気持ちをそっと抑え、安全に野ノ湯づくりに向き合うためのものでした。
4. 野ノ湯をつくる人 --職員の日向さん--
兵庫の大学で教育心理学を学んだ後、広島に戻り、療育の分野で働き始めた日向さん。職場の花壇のお世話を通して「植物っていいなあ」という思いに気付き始めた頃、淡路島に園芸学校ができるのを知り、入学。そう、日向さんはやろうと思ったらやる!そんな方です。
日向さんが園芸学校を卒業後、就職した当時の広島ひかり園には、湧広さんも活躍していた農耕科がありました。その後、入居者のみなさんが年を重ね、だんだんと外での作業が難しくなり、温室やハウスが姿を消していきました。日向さんは「かつて外でお米を作ったり、お花を作ったりしていた人達と、植物との接点を仕事という形でもう一度持てたら」という思いから、広島ひかり園で歴史のある軍手に着色をする草木染めを思いついたそうです。とはいえ、いきなり草木染めを1年通して仕事にするには難しい……。悩んでいた頃、冬場に収穫したビワの葉が1年間染めに使えること耳にしました。
「さっそくビワの葉を集め、染めやすいようにとちぎってみたら綿毛がすごくて。じゃあその綿毛を落とそう、せっかくだったら葉っぱも洗って、乾かすことも仕事にしようと。そうしているうちに、染めに使う植物の香りにに気付き、入浴パックを作ることになりました。最初から仕事はなかったし、商品ももちろんありませんでした。目の前にいる人たちに合う仕事は何か、と探りながら、施設の周りにある植物を使ってできていったのが野ノ湯なんです。」
*療育…障がいのある子どもやその可能性がある子どもに対し、発達段階に応じた発達を促す支援のこと。
5. 暮らしに寄り添う野ノ湯
野ノ湯に入っている植物は、わたし達の暮らしのすぐそばにあるものばかり。バラ風呂のような見た目の豪華さはないけれど、どこで収穫された材料かちゃんとわかる「安心」は何よりのぜい沢。これに入れば腰痛が治る!なーんてすごい効能はありませんが、やさしい色とほのかな香りは、いつものバスタイムを豊かなものにしてくれます。身近な植物で丁寧に作られた野ノ湯は、日々の暮らしに寄り添う心強い味方です。あなたの毎日に、野ノ湯を取り入れてみませんか?
6. 野ノ湯をいっしょにつくる福祉事業所を募集しています
野ノ湯に入っている植物は、わたし達の暮らす場所に「ふつうに」あるものばかり。身の回りにある植物だから、安全を確認できるしすぐに手に入る。特別なものじゃないから、誰でも扱うことができる。広島ひかり園では野ノ湯を一緒に作って下さる福祉事業所を募集しています。
野ノ湯は季節ごとに6、7種類の植物を使って作られます。香りのよいビワの葉やヨモギ、見た目が華やかなバラ・マリーゴールド・キンセンカなどが代表的な材料です。広島ひかり園では、園内の畑でビワの葉やマリーゴールドを、駐車場裏の斜面でヨモギを収穫しています。畑や花壇はあってもなくても大丈夫。事業所の周りのちょっとしたところにある植物に目を向けてみて、これはどうかな?と思うものがあれば、広島ひかり園までお気軽にご相談下さい。
お願いしたい作業は植物の収穫から乾燥まで。野山に自生している植物もあれば、バラやマリーゴールドのように栽培が必要なものもあるため、取引価格は植物によって変わります。野ノ湯づくりの仕組みを共有して、広島の、瀬戸内の、新しいお土産を作ってみませんか。
広島ひかり園HP内お問い合わせフォーム、もしくは電話にてご連絡お待ちしています。
広島ひかり園
http://www.hiroshima-hikarien.com/
0829-74-0057(受付時間:8:30~17:30)
(2019年8月、9月取材)
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