読めない本の話
私には読めない本がある。
読めないというのは何も難しいからとか興味がないからとかそういうことではない。
なんとなく読むのが怖いのだ。
なにが怖いのか。
それはその小説によって私のちっぽけな自尊心が傷付くかもしれないからだ。
その作家には「忘れられない女性が」いるようで、どうやらその女性が作品に大きく関わってくるらしいのだ。
私はその作家を何年かTwitterで追っていて陰ながら応援したり共感したりしていた。
だがしかし、その「忘れられない女性」のことだけがどうしても引っかかってしまって「ああ、この人は私とは違う世界の人なのだ」と感じてしまうのだ。
簡単に言ってしまえば私はその「忘れられない女性」に嫉妬したのだ。
私は誰かの「忘れられない女性」になれるのだろうか?と。
他人の青春は青い。青すぎて目が眩む。
勝手に持っていた作家への親近感は「忘れられない女性」がいるという事実で簡単に崩壊した。
だから私は同窓会で再開した二人がふたたび燃え上がるみたいなエピソードが大嫌いなのだ。
薄暗く痛々しい青春しか送れなかった女のただの僻みだ。
そんなことで作品を遠ざけるのはくだらないことかもしれないけれど、今はまだ読めない。
一生読めないかもしれない。
ああ、私も甘酸っぱい青春がほしかった。
嘆いてももう二度と戻れない。
もっと年を取って諦めがついたらあの本も読めるようになるだろうか。
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