方言に慣れたくなかった

「け」 「く」


東京では聞かない、平仮名一文字で成り立つ会話。



右側には洗濯物が積み上がった縁側。
左側には自分と何親等離れているのか分からない親戚の仏壇。
頭の上には長針が上を向くごとに低い音を響かせる柱時計。

ぼーん、ぼーん、ぼーん

短針が示す数字の数だけ鳴る時計が昔は怖かったけれど、それもいつしか慣れた。



「すいか切れたよ」

おばさんの優しい声が聞こえてきてわたしは畳の上から身体を起こす。



「いっぺ寝だが?」

小さなお皿にすいかを乗せ、おばあちゃんが仏壇の前に座る。
仏壇の無い家に育ったわたしは未だにこの習慣が身に付かない。

「うん」

隣に座って一緒に知らない親戚へ手を合わせた。
なむなむ。どうか見守っていてください。なむなむ。


「すいか、け」
「うん、たべる」

意味が分かっていてもわたしは「く」と返せない。

いや、返さない。



憧れだった方言は、いつまでも慣れずに違いを楽しんでいたかった。



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