ショートショート・独裁者は笑う
「見てみろ。面白いじゃないか。」執務室のモニターに映る映像を見ながら、N国の独裁者は妹に言った。映像は海を隔てた隣国のニュースだった。N国がミサイルの発射実験を行ったことで、アラートが響き渡り、安全な場所を求めて逃げ惑う人々の姿が映し出されていた。
「そうね。私たちJ国にミサイルを落とすようなまねは絶対しないのに、あんなにうろたえてバカみたい。面白いからもっとやってやりましょうよ。」と妹は言った。
「そうだな。」と独裁者は言った。「そして、J国の軍事費増強に賛成する国民を増やしてやろうじゃないか。J国のマネーがどんどん武器輸出国に流れて、経済はますます停滞し、国民は窮乏する。」
「そうすればあの国は自滅するわね。その日が楽しみ。」と妹は笑った。
「そう、そしてJ国は、おかしいと声を上げる人は少数派だ。我が国のように力で押さえつける必要はない。唯々諾々と政府の言うことに従って自滅に向かっている。さあ、J国が滅びた後、どうしようか。」と独裁者は笑った。