激しい雨
激しい雨に打たれながら君は笑っていた
「いつまでも不機嫌でいても しかたないから」
そう言って ずぶ濡れの笑顔
私は辛かった 傘を持っていなかったから
私もずぶ濡れだった 笑えなかった
「なんで君は笑えるの?」
そう訊こうとしたが 君は薄い膜の向こうにいるようで 声が届かない
君の声は 儚く聞こえるのに
私の声は 君には届かず
ただ二人 相対していた
君はずぶ濡れで 静かに笑う
その笑顔はもう この世のものではない神々しさで
私は恐ろしくなり 君に駆け寄ろうとする
しかし 膜が邪魔なのだ
薄いラップフィルムのような膜が くちゃくちゃと体にまとわりつき
いくらもがいても いや もがくほどに前に進めない
体中くちゃくちゃと膜に絡めとられた私は
顔だけどうにか君に向け 「助けて」 と言おうとした
いつのまにか君の姿は無い
どこへ行ってしまったのだ こんな雨の中
私は絡めとられている場合ではない
君を探さねば
膜をひきちぎろうとするが 叶わず
ますます 絡まる
君の笑い声が響きわたり
雨が急激にやんだ
それと同時に膜が消え 勢い込んでいた私はよろめく
よろめきながら君を探したが
もうどこにも居ないのだ
もうどこにも居ないのだ