先生の推薦で入った会社が残業過多!求人誌にも嘘をつかれた20代男性の場合/テン職の光 #5
「20代で若手、エース格の人材」
という言葉で、とどんな人物像が浮かびますか?
エース格だと評されているのは、現在電気工事の会社に勤める比嘉友希さん(仮名)27歳。
会社から評価され、先輩との人間関係も良好、長年付き合った彼女と結婚も果たした比嘉さん。絵にかいたような順風満帆な暮らしに見えますが、実はそれ以前の2社では、能力が認められないどころか、ただただ時間だけを消費するような日々を過ごしていました。
今回は、小宮が時々セミナーでもお話しする、比嘉さんの転職STORYをお届けします!
はじめて就職したのは「いい会社」だと先生に推薦された会社
現在、電気工事の会社に勤める比嘉さんの最初の就職先は、食品メーカーの工場。高校卒業時に、学校の進路指導の先生に薦められたそうです。
特にやりたいことのなかった比嘉さんは、先生が薦めるならと食品メーカーに面接に行き、無事採用。先生からは「いい会社だから3年は頑張れよ」と背中を押され、初めての社会人生活がスタートしました。
が、いざ入社してみると、工場の稼働時間が長く、23時を過ぎるまで残業があることがしばしば。残業代がたくさんつくということもなく、給料が20万円を超えたことはありませんでした。
とはいえ「3年は頑張れ」という先生の言葉を守り、3年間は頑張って働いた比嘉さん。
ですが3年経っても変わらず残業は多く、そのわりに成長実感はない。給料が上がらないため、彼女と同棲したいのに実家暮らしから抜け出せない。時間がないし疲れるので友だちとも遊べない。
「周りはこんな感じじゃないのに」
「みんなは仕事が終わって飲みに行ったり遊びに行ったりしてるのに」
「どうして自分だけがこんな感じなんだろう」
そんな想いが募り、比嘉さんは3年を区切りに転職を決意。
転職の条件として絞り出したキーワードは「手に職がつく仕事」「土日休み」「残業がない」でした。
さっそく求人広告を読み漁った比嘉さんは、条件にぴったりな求人を発見。「土日休み」「技術が身につく仕事です」という言葉のほか、「先輩が仕事を丁寧に教えます」ということが書かれていました。ここなら、先輩に教わりながら手に職をつけることができる。そう確信した比嘉さんはすぐさま応募し、入社することになりました。
求人誌に書かれていた「魅力」は全部嘘だった。
さっそく入社した比嘉さんですが、いざ入ってみるとその会社は「仕事は見て覚えろ」スタンス。先輩は強面のおじさんやお兄さんばかりで、気軽に話しかける雰囲気がないばかりか、小突かれたりいじられたり、つまり雑に扱われながら仕事をすることになりました。
おじさんたちの態度や「見て覚える」というスタイルに苦手意識を感じた比嘉さん。「丁寧に教えます」に惹かれて入社したのに、分からないことを聞ける雰囲気でもありません。なかなか要領を掴むことができず、成果を出せないまま1年半が経つ頃には「全然使えないやつ」として扱われるようになりました。
そんな毎日に比嘉さんはメンタルがやつれ、2年目のある日、ついに適応障害という診断が下ります。
主治医の薦めもあって、比嘉さんは2度目の転職を決意します。
ですが転職するといっても、比嘉さんは何を信じればいいのか分かりませんでした。教師から紹介された会社は残業だらけで、求人広告を見て入った会社は嘘ばかりだったのです。
言われたことや書いていることを真に受けてはいけない。
そう思った比嘉さんは勇気を出して「質問する」ことにしました。そして現在働く会社の面接で「土日休みと書いていますが本当に休みですか」「仕事は見て覚えろと言いませんか」と面接官に問いかけたのです。(なかなか勇気がいることだと思います)
「やる気がない」と一蹴されてもおかしくない質問に対し、面接官は丁寧に「土日が休める理由」や「どんな社員が在籍しているか」をひとつひとつ教えてくれました。その回答を聞き、ここでもう一度頑張りたいと思い、入社を決意したのです。
おじさんとの会話が楽しい!
その会社に入社して5年。比嘉さんは現在、一番の若手ながら、エース格の人材として活躍しています。さらに、前職では苦手だった「年上のおじさん」に自ら飲みに誘うことも多いとか。今は「おじさんと飲むのが楽しい」「他愛もない馬鹿話をするのが楽しい」と嬉しそうに話します。
さらに長年付き合った彼女とも結婚したとか。頑張りが認められて、楽しい人と働ける、好きな人と一緒になれる。こういったことは一見、「ふつう」と見過ごされがちなことですが、比嘉さんはその幸せがよくわかっています。なぜなら、その「ふつうの幸せ」こそ、彼がずっと求め続けたものだったからです。
小宮の視点
僕は採用コンサルなので、求人票を正確に書かなければいけないとか、嘘を書くのは法律違反であるとかを問い正す職責にはありません。実態を把握しようとも思ってない。だけど往々にして、こういう話によく巡り合っているという事実があります。
この話は求職者側のみから聞いた話なので、100%事実とは限りません。 人間には思い込みや相性、捉え方の違いなどがあるからです。たとえば「しょっちゅう残業があった」という言葉ひとつとっても、その「しょっちゅう」はほぼ毎日だったかもしれないし、週1程度だったかもしれない。
僕はそのあたりの真実を追求したいとは思いません。採用コンサルとして僕が大事にすべきは、少なくとも求職者や転職希望者の方が「こういうマインドに陥っている事実がある」ということ。
事実はどうであれ、真面目に働こうとしている若者が、2度も裏切られた気持ちになっている、ということが重要です。彼の事実は「社会に2回、嘘をつかれてる」なのだから。
「人が来ない」と悩んでいる企業さんに、僕がまず考えて欲しいのは「そんな彼が見てることを想像していますか?」ってことです。
だって僕のセミナーに来てくれる企業さんの多くは、嘘をつかず、真っ当にやってる。だけど求人を見ただけでは、嘘をついている会社とついていない会社を見分けられないわけです。だから「嘘をつく会社と何が違うか」を示さなければいけない。
テン職の光#4でも書きましたが、企業さんには「まともな会社だということをアピールしましょう」と口酸っぱく話しています。
ちゃんとやっていることを知ってもらうことがまず大事なんです。
あと、僕がもうひとつ、僕が比嘉さんの話でいいなって思ったのが「おじさんとよく飲みに行くようになった」ってところ。この話、大好きです。
若手はみんなおじさんと飲みたがらないって言うけど、あれ、都市伝説ですから。若手だって、気のいいおじさんとは飲みたいんですよ。前の会社のおじさんから誘われても、彼は絶対に行かなかった。だけどこの会社のいじさんとなら行くの。てか、誘うの。
そして彼はこの会社に入って結婚もしてますよね。ここでなら子供を作りたいわけです。
僕はよく「新卒採用で無理にビジョンを語るな」と言っていますが、これは彼のような人が大半だからです。
僕は、彼女と暮らしたいとか、結婚したいっていうモチベーションに敵うものってそうあるかな?って思うんです。そこを全く抜きに「社員は会社の家族」とか言ってる会社はどうかと思っちゃう。いや奥さんのものやろ、子ども達のものやろ、って。
取ってつけたビジョンを語るより、働く人が家族を大事にできるような雇用を考えた方がいい。僕はそう思いますね。
〈聞き手・執筆:三好優実〉