恋愛ヘッドハンター2 砂時計⑬終
智也は家へ帰る前に両親のいる病院へ寄った。二人は変わらず目覚めることなく管に繋がれたままだった。
智也は両親に早く治ってほしいと思っていた。それなのに、最近では二人が目覚めるのが少し怖かった。両親が家に戻るということは、れいかときょうだいに戻ることを意味するからだ。
今回、智也は風間ひかりと大岡賢太郎の恋愛を見て、未練というものはそうそう断ち切れるものではないと知った。自分もれいかときょうだいに戻っても、ずっと思い続ける自信があった。風間ひかりや大岡賢太郎のように、違う人と結婚しても密かに引きずってしまう未来が見える。大岡恵里菜みたいに愛する人の幸せをただ願う人にはなれそうもない。
胸の奥で想いが煮えたぎる。止まらない妄想を振りきるべく、智也は両親の元を去った。
病室を出て歩いていると、れいかの声が聞こえた。
「智也、来てたの?」
振り返ると、れいかが担当医の男性と一緒にいた。早川というまだ若い男性医師だった。
「じゃ、先生、また」
れいかは軽くお辞儀をして智也に走り寄った。
「おかえりなさい」
「ただいま」
智也は早川のほうを見ながら、れいかの腰に手を回して引き寄せた。
「やめてよ。外では。私たちきょうだいなんだから」
「嫌だ」
智也は逃げるれいかをさらに引き寄せた。
早川は表情一つ変えずに踵を返した。
「早川先生と何話してたんだよ」
「何って、お父さんとお母さんの事よ」
「何だって」
「特に別状ないって。早く良くなってほしいんだけど」
れいかはため息をついた。
「本当にそう思ってる?」
智也が訊くと、れいかは目を大きく開けた。
「当たり前じゃない!」
叱りつけるような言い方だった。
「私、お母さんと話したい」
「二人が目覚めたら、俺たち、別れなきゃいけないんだぞ」
「別れないよ」
「え?」
自動ドアが開き、二人は病院から出た。
パラパラと小雪が降っていた。
「家族なんだから。別れる訳ないじゃない。あ、バス来てる。急いで」
停車中のバスに向かってれいかは走り出した。
「そういう意味じゃなくて」
智也はれいかを追いかけた。
(終)