恋愛ヘッドハンター2 砂時計⑨
色鮮やかな夢だった。
賢太郎は布団の上で大の字になって寝ていた。裸だった。両腕に重さを感じる。左右確認すると、両方に女がいた。右腕には懐かしい顔があった。うっすらと頬に金色の産毛が残るかつてのひかりだった。左腕にはすっかり大人になったひかりがいる。賢太郎は二人を引き寄せて抱いた。二人も裸だった。
昔のひかりが胸の中で目を閉じる。賢太郎はその小さく固い胸を揉んだ。切なさがこみ上げる。
今のひかりが唇を重ねてきた。吸い付きながら、やわらかな腰に手を回す。二人を同時に抱いていると、失った時間を取り戻しているようで満たされてきた。
二人の手足が賢太郎の体に巻きつく。肌をすべるように絡んできた長い手足が少しずつ汗ばみ、吸い付いてくる。まるで、手足に唇がいくつもついていて、全身を口づけされているようだった。
賢太郎は自分を見失うほどの感覚に見舞われた。性的な高ぶりよりも恐怖感が募り、二人をはがそうとよがった。抵抗するほどに二人の手足は賢太郎の体に吸い付いた。苦しむ賢太郎を二人のひかりがせせら笑った。狂った麗しさに賢太郎は震えた。
「ああ」
息絶え絶えに目を覚ました。賢太郎は露天風呂付客室のベッドにいた。
「大丈夫?」
ひかりがベッドの側に座っていた。賢太郎の手を握る。
「ああ、大丈夫だ。結構寝てたのかな?」
ひかりは首を振った。
「さっき、露天風呂を見た後にめまいがするって言ったから、ベッドで横になる?って言って、そのままここまで連れてきただけなんだけど。どうかしたの?」
「ううん。夢を見たから。結構寝てたのかなって思って」
賢太郎の額をひかりが丁寧に撫でた。
「悪い夢でも見たの?」
「良くも悪くもないよ」
「そう。今日は泊まっていったら?」
賢太郎は天井を眺めた。
「泊まらないけど。ちょっと横に寝転がってくれないか」
ひかりは黙って賢太郎の横に寝そべった。賢太郎はひかりを静かに包んだ。
「俺は自分で思っている以上に、ひかりのことが強烈に好きなんだよ、たぶん。でも、こうしているだけでいいんだ。というか、もう、こうするしか出来ないんだ」
ひかりは賢太郎の背中に手を回し、幼い子を眠らせる時のように、優しくリズムを取った。