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直観と論理をつなぐ思考法

「アート」という言葉を普段使うことはありますか?weekly ochiaiを見始めたとき、落合陽一がしきりに口にしていた「アート」という言葉がなかなか咀嚼できませんでした。

もともと絵画を見るような人間でもなく芸術には疎かったのは事実にしても、まさかビジネスの文脈でアートが語られるとは全く考えてもいませんでした。「???」となっていた僕にとって理解を深められる大きなキッカケは、2018年のビジネス書大賞で準大賞に輝いた『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』を読んでから。「感性」とか「自己表現」とか、なんとか咀嚼に至ることができたと思います。

ロジカルシンキングの本はいくつか読んでいたのですが、もはやそれすらも古いもの(=常識)なりつつあるのだと…
大前研一さんの『考える技術』(ビジネスマンにとって論理的な思考がいかに重要か説いてる本)が2004年に出版されていたことと照らし合わせると、社会の変化を感じさせられます。

ロジカルシンキングは、幅広く浸透したと共に、今ではその限界が強く叫ばれるようになっているようです。現代の複雑な問題は論理だけではすぐに行き詰ってしまうよ、と。論理に何を足すかが重要なのでしょう。

そんな中で、紀伊国屋で平積みされていた、3月に出版されたばかりのこんな本を紹介します。

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『直観と論理をつなぐ思考法』

「もしすべてのウェブサイトをダウンロードできて、そのリンク先を記録しておけたら、どうなるだろう?」(ラリー・ペイジ)

特にシリコンバレーで顕著なイノベーターたちは、ともすれば笑われるような「妄想」ともいえるビジョンを示したうえでそれを実現している。彼らが起こすようなイノベーションは世界に大きな影響を与え続けているが、それはビジネスの世界で重要とされる「論理」だけで生まれたものではない。彼らは直観を論理に結びつけ、妄想を戦略に落とし込むことで、不可能とも思われることを現実のものとしてきた。そう、イノベーションには直観もとい妄想が必要なのである。

そんな彼らの思考法は広く私たちにも有益なものではないのか。では、単なる「空想家」とイノベーションを起こすビジョナリーとでは何が違うのか。「ビジョン」とも捉えられる妄想とは一体何なのか。その思考法を体系的に紹介したのがこの本である。

著者が執筆した課題感は、多くの人が「他人モード」にばかり偏ってしまっていること。会社から指定された時間に出社し、頼まれた書類を作成し、部下のマネジメントをし、帰ってからもSNSで他人とつながる…
こんな生活の中で、思考を自分の中に向ける時間が極端に短くなって、自分の本当のビジョンを見失っているのではないか。もっと「人間らしく考える」ことが習慣になれば日々の充足度合いはもっと高まるのではないか。そんな著者の考えをベースに、自分のビジョン(=妄想)を実現させる思考法として紹介されているのが「ビジョン思考」と名付けられたものである。

それは簡潔に、PDCAと同じく、4つのパートをサイクルさせるものである。

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<妄想>
全ての始まりはこの「妄想すること」にあると言っても過言ではない。このビジョン思考が特殊たる所以は、まだ目に見えない理想を自発的に生み出すことにある。故に、いかに妄想できるか、自分の中から妄想を引き出すことが出来るかが鍵である。
そのために重要なのは、「余白をデザインすること」。真っ新なノートに自分の思考を棚卸することの有効性を紹介している。

<知覚>
近年のシンプル・わかりやすいブームは危険な側面がある。事象を短絡化しすぎることは、万人に理解されるかもしれないが、思考が同一化した視野の狭い人を大量に生み出してしまう危険性を含んでいる。複雑なまま知覚し、自分視点で考えることにより意味付け(=センスメイキング)を行うことが求められる。知覚の初歩は、「ありのままに見る」こと。

(アオアシでも福田監督が言っていた。「肝心なのは、見たものを正しく覚え判断することだ。」 そして、「肝心なのは、そういう言葉通りの意味で考えないことだ。」)

<組替>
主観的なアイデアは、磨くことで客観性を付与することが出来る。そのために、
“組替=分解+再構築”する。事象について、当たり前とすら思える要素も分解し、あらゆるものと再構築し新たな結合を生み出す。どれだけアナロジーを効かせられるか。ジェームス・ヤングも言っているように、アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。

<表現>
とにかく、「手を動かす」こと。アイデアの具体化・フィードバックの反復(イタレーションと呼ぶらしい)こそが思考を促進させ、アウトプットの質を高める。デザイン思考でいうところの「プロトタイピング」にあたる。「速さ」が質を担保する。
(村上春樹の『職業としての小説家』で述べていたのは、小説を書くということがいかにフィジカルなことかということ。表現・実現には思考だけでなくフィジカルな力が大事。)

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妄想を、手を動かして具体化する作業を反復する。四つのパートを何度もサイクルさせることで、少しづつビジョンが実現していく。その過程にこそ、本当の自己充足があるのではないか。ビジョンドリブンで、まずは自分自身の「妄想」に対して正直になろう。


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デザインシンキングが日本に広く浸透したのはデザインファームであるIDEAのティム・ブラウンが著した『CHANGE BY DESIGN/デザイン思考が世界を変える』が日本語訳されてからだと言われているらしいです。先日もニュースで、富士通が他社に対してデザイン思考のワークショップを行っていることが挙げられていました。

就活でロジカルシンキングに出会い、その次のデザインシンキングに出会い、「“考える”とは何だろう」という深いのか浅いのかわからない問いに陥っていた自分にとっては、いろんな思考法が体系化されているもんだと関心していました。

その矢先に見つけた本は、『デザイン思考の先を行くもの』

えっ、もう先行っちゃうの…?まだデザイン思考もよくわかってないんすけど…?

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デザイン思考はあくまで問題解決のプロセスであって、根本はPDCAを回すことと同義である。この先に求められるのは、いかにその芽を生み出すか。それはすなわち、個人の「見立てる力」だと述べている。何かの専門性を突き詰めたのちに、ふっと異分野のものを見たら、一般の人が素通りするようなことがその人にとっては革命的なアイデアに見えてしまう。そしてそれは社会に影響を及ぼすイノベーティブなものになる。

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ざっくりとそんな内容です。ネスレ日本の社長が前にテレビで「イノベーションは個人からしか生まれない」と言っていたのと同じ文脈だなあと繋がりました。

この『論理と直感をつなぐ思考法』のビジョン思考と『デザイン思考の先を行くもの』で述べられていることは非常に近いです。もっと言えば、「見立てる力」がビジョン思考に内包されるものであり、“ビジョン思考=見立てる力+デザイン思考”に近いのかなと。厳密にいえば違う部分があるとは思いますが、ざっくり言えばこんな感じではないでしょうか。(奇しくも、二つの本が出版されたのは4か月ほどしか違わない。)


直観の話は多くの場所で展開されていますが、サッカーの岡田武史監督が、将棋の羽生善治さんとの共著『勝負哲学』の中で述べていることが的を得ていると思います。

「直観はロジックを超えるものだが、同時に、ロジックによって支えられているものでもある。」

アートの話に戻ると、似たような表現を山口さんはしています。

「優れた意思決定の多くは、論理的に説明できないことが多い。つまり、これは“非論理的”なのではなく“超論理的”だという事です。」

著者の課題感でもあったように、もっと自分モードを作り出すことが個人にも社会にもプラスに働くのではないでしょうか。人によって異なるとは思いますが、なんだかんだ皆に共通して、個人の力が大きく発揮されるのは「ワクワクしている瞬間」なのでは。それが集まったときに大きな力が働くはず。

まずは、そんな組織に貢献して活躍できるように、自分に向き合って、ひたすらに手を動かしていかねば。


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