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私は「さくらももこ」でほっこりできない
私の母は、さくらももこさんのファンだった。母の実家に行けばさくらももこさんの作品が本棚に並んでいて、ある程度の年齢になると母は私に彼女の著作をいくつか勧めてくれた。もちろん、兄弟そろって日曜日は「ちびまる子ちゃん」を見た。
ただ、ある時から私はちびまる子ちゃんを見れなくなった。
まる子ちゃんのクラスに、「前田さん」という女の子がいる。えらが張ったホームベース型の顔をしていて、鼻の主張が強く、いつも怒っていて眉毛がきゅっと上がっている。怒りんぼうで口うるさく、クラスメイトが掃除をサボると特にキーキーと声をあげるせいで、みんなからちょっと嫌われている。
真面目で、融通が利かず、頑固で、自分の気持ちをうまく伝えられず、怒りんぼうだと思われてしまう。心の底では可愛くて優しくて素直な女の子たちに憧れているし、クラスの爽やかでかっこいいサッカーの上手な男の子と楽しくお喋りしてみたいと思ってる。前田さんは、残念ながら、私。残念ながら、幼い頃、私は前田さんだった。
ちびまる子ちゃんの中には、大人になればくだらなくて笑えるけれど、当時の私たちにとって「人生の終わり」を意味するような大事件がたくさん起こる。
クラスで嫌われた気がしたこと。
自分の勘違いで友達に間違いを教えてしまったこと。
ほかのクラスの噂にまどわされたこと。
誰かが誰かを好きで、誰かが誰かを仲間外れにしてること。
体調が悪くてクラスで吐いてしまったとき、誰も助けてくれなかったこと。
そういう胸の傷をえぐってくるのだ。あまりにも繊細に当時の思い出を蘇らせてくる。前田さん。頑張り屋さんなんだよね、あなたは。怒りをこらえるために歯を食いしばるからエラが張ってホームベース顔にもなるし、大声を出さないように鼻息ばかり荒くするから小鼻もふくらむ。眉の位置が高いのは美人の象徴なのに、可愛くない象徴として描かれている。…今思えば、ちびまる子ちゃんのキャラビジュアルってルッキズムの塊かも。
そして、まる子ちゃんは怒り泣く前田さんを見て、適当に慰めはすれど、決して、味方はしてくれないし、助けてもくれない。まる子ちゃん自身にはいつだって自分の味方をしてくれる大切な親友・たまちゃんがいる。だから、適当に泣いてる誰かを慰めたりできるのかもしれない。
数日前、SNSで前田さんが怒り狂い泣く画像が回っていた。「帰らないでくださいっ。掃除をしてくださいっ。」真っ赤な顔で、歩き損ねたカニのようにがに股の足をばたつかせている前田さんを見て、私はちょっと胸を痛めながら心の中で彼女を抱きしめた。
前田さんは、生きるのが下手。それは仕方ない。見ててちょっとイラっとすることもあるけど、でも私は心の底から願ってる。前田さんの真面目さと正義感が、いつか報われる日が来ますように。世の中の不公平と不条理に慣れて、本当に自分が大切にしなきゃいけない人には優しくできるようになりますように。前田さんは悪い子じゃない。不器用で嫌なやつになっちゃうこともあるけど。でも、悪い子じゃないのよ。
ちびまる子ちゃんは、苦手。
さくらももこさんは、これだけ人の心を突くんだから、すごい作家さんなんだと思う。でも、私にはコジコジだけで良い。
私、前田さんの味方でいたい。でもきっと彼女と一緒に掃除をするよ。