魔女の作った文学館
江戸川区の広々とした公園へと自転車を走らせた。
この日僕は葛西のスーパー銭湯に行ってひとっ風呂浴びた後だった。
時間はまだ1時半過ぎでこのまま家に帰っちゃうのは勿体無い気がした。そういえば、このあたりに大きい公園が有るんだったと思い出す。
ここのスーパー銭湯を目指す時に見ていたGoogleマップには、その先に大きな緑のエリアがあった。そこへ行こう。
スーパー銭湯の隣の大きなアリオを横目に見ながら少し漕ぐと緑が深い所に着いた。水路沿いの道路を進むと公園の入り口があった。
入り口を少し進むと動物と土と草の強い匂いがする。見るとポニーランドという文字が見える。
残念ながら大人は乗ることができないらしいが、小学生ならポニーに乗れるっぽい。
向こうでちょいぽちゃの小学生がポニーに乗っていた。動物と子どもという最強に可愛い組み合わせで最強に可愛かった。
公園は上に向かって緩やかな坂道になっていて舗装された道路が小高い丘に敷かれている。
自転車を押しながらその丘を登っていくと風変わりな建物があった。
入り口らしい所には全身ピンクのコスチュームを着た職員さんらしき女性が立っていて、そのすぐ隣には『魔法の文学館』とあった。
どうやらここは白とピンクのオシャレ建造物では無く、魔法の文学館という施設らしい。
一体何が魔法なのか、どういうテーマなのかとかは外からだとあまり分からなかったので、とりあえず入ってみることにした。
ニコニコとした笑顔で職員さんが迎えてくれて、そのニコニコに促されるまま受付みたいな所に行くと大人700円とあった。正直図書館的な所だと思っていたので入場料かかるんかい!とは思ったものの、大人なので涼しい顔で素直に700円を払い中へ入る。
外の人同様に濃いピンクの衣装に身を包む職員さんが沢山居て、少し案内とかしてる。建物の内装も職員さんの服同様のピンク色で統一されている。
中に入ってわかったのだけど、文学館という通り色んな本が沢山並んでいる。
置いてあるのは児童書や絵本で、街のように並べられていた。
なんでもこの魔法の文学館は『魔女の宅急便』の作者、角野栄子さんの功績を讃えて建てられた文学館との事。
中央の広くなったフロアには定期的に角野栄子さんが子どもたちに向けて呼びかける動画がリピートされている。
棚は街のような装飾や黒猫のジジなどがあしらわれ、そこらじゅうに読める場所が用意されていてカップルや親子連れ、老夫婦などがおのおののスタイルで読書したり本を手に取ったりしている。
ピンク過ぎる内装はやや落ち着かない感も否めないんだけど、せっかくお金を払ってきてるのにコンセプトや美術が無いのも寂しいのでこれくらいがいいのかもしれない。
ちょっと非日常の空間でする読書体験って意外と稀有かも。
魔法の文学館は3階建てで、建物の真ん中を貫く階段は幅が広く中央広間にかけて広くなってるのでステージみたいにも見える。
こういう所にも子ども心をくすぐる工夫が見えるなぁと思った。
2階はアトリエ風の内装で角野栄子さん自身の紹介がされている。
また、ピザの箱が積み重なった所からさまざまなイメージが生まれ出している立体のアートと、野菜が連なって大きな渦を作ってる立体アートも展示されていた。
僕は今まで角野栄子さんの作品を読んだことが無かったけど、2階の展示で知った角野さんは
とにかくオシャレで考え方が明るく自分のスタイルを持った素敵なおばさまって印象だった。
声も表情も心も、若くてみずみずしいのが一目でわかる。お年は88歳との事だけど、それが信じられないくらい。
なんでか(たぶん魔女宅の作者というイメージが起因してるけど)角野さんはめちゃくちゃ魔女っぽいゾ、と思った。感覚的には気づいたって感じ。たぶん現代の魔女って角野栄子さんみたいな人かもしれない。
2階のアトリエ風の展示には角野さんの功績や足跡の他に、角野さんの本棚、小物や玩具、机、普段着ている衣装のこだわりなどがショーケースなどに入って分かりやすくまとめられている。
本棚には色んな名著やサブカルチャーの名作、児童書や絵本、児童文学の他に様々な専門書など並んでいて、あらゆる知層を持った人だと見て取れた。そしてそこに並んでいる本の中に、僕の直感を裏付けるタイトルを見つけた。
ちょっと震えたようなフォントで書かれている
『魔女図鑑 魔女になるための11のレッスン』
また隣り合う本にも魔女や妖精、妖怪、魔術など怪しい語句がひしめき合っていた。
思わず嬉しくなって写真をパシャリ。
やはり角野さんは現代の魔女だ‼︎とひとり興奮していた笑
功績や足跡を記した壁の年記の隣には中央にモニター、サイドには子ども時代から現在にかけてある時々の角野栄子さんの写真が展示してある小部屋がある。
その中に『魔女を訪ねて ルーマニア』というキャプションと共に2人の老婆と共に映る楽しそうな角野さんの姿があった。
そのあとは文学館の中でぐるぐる回って目についた絵本や児童書をパラパラと読んだりして過ごした。角野さんの本はアッチという幽霊が活躍する児童書を1冊丸ごと読んだ。
児童書なんて手にするのも何十年ぶりだろうけど、小気味の良いリズムと音が広がっていて楽しい。
絵本を手に取るとその絵や作品の自由さに驚かされる。
児童書にはツルツルに磨かれた子どもの感性に合った文章が並んでいる。
みずみずしい本の魅力と出会える、魔法の文学館、是非足を運んでいただきたいスポットだ。