「料理本の読書会」連載5回目は「お酒がすすむ簡単おつまみと『酒談義』談義」!
「かんぱーい」
田中 みなさん、あけましておめでとうございます! レシピ本から歴史の本まで、さまざまな料理本を紹介する「料理本の読書会」が今日も始まりました。ライターの田中と双子のライオン堂書店の竹田の二人が、わいわい本と料理のお話をお届けします。
竹田 かんぱーい!
田中 今回は年明けなので、一杯やりつつ、ほろ酔い気分でお届けしようと思います。
竹田 久しぶりにシェリイ酒を飲んだけど、おいしいね!
田中 新年といえば、日本酒じゃないんですか?
竹田 ちゃんと、日本酒も用意してますよ!
田中 その2つは一緒に飲んでもいいやつですか?
竹田 吉田健一がおすすめって書いてたじゃん!
田中 そうだったね。というわけで、今回紹介する本は吉田健一(*1)「酒談義」(『日本文学全集 20 吉田健一』<河出書房新社 2015年>に収録。また、文庫版<中央公論新社 2017年>も有)です。
*吉田健一…1912年、東京生まれ。評論家、英文学者、小説家。父は第45代内閣総理大臣の吉田茂。幼少期から当時外交官であった父の赴任先の海外(中国、イギリス、フランスなど)での生活が長く、大学もイギリスのケンブリッジ大学キングスカレッジに入学したが、退学して帰国。以降文学の道へ。執筆に加え、翻訳、大学での教職などでも活躍した。評論集では『英国の文学』、『シェイクスピア』などが、その他のエッセイや小説では『乞食王子』、『酒宴』、『舌鼓ところどころ』、『残光』などがある。1977年永眠。
ほろよいお酒トークエッセイ
竹田 このエッセイ、僕たちは昔一緒に読みましたね。
田中 「河出書房新社の日本文学全集を全部読む読書会」で課題本として読みました。けっこう前でしたよね。
竹田 いま調べたら「吉田健一」の巻を課題本にしたのは、2015年のようです。人生あっという間ですね。
田中 これ、お正月の実家の会話ですよ。本題に入りましょう。
竹田 今回のエッセイは、文章が親しみやすくて洒落ていました。この話ほんとかな?という語り口も含めて雰囲気があってよかった!
田中 「酒談義」は、吉田健一が自分の経験を千鳥足のようにふらふら心のおもむくままに書いていくエッセイです。「まず、洋酒から始める」という一文があるので、日本酒の話も出てくるのかなと思いきや、紙幅が足りないので、結局日本酒を語るのはやめてしまって、最後まで洋酒の話だけで通す、という自由な作品になっています。
竹田 そうそう、本当に自由自由! 吉田健一みたいに高い教養のある人が「どういう事情によるのか今は忘れたが、何かそんなことになる因縁があって」なんて、いい加減な一文があったりして、笑っちゃいますよ。
田中 カクテルの話から始まって、ウイスキーの話、シェリイ酒の話、葡萄酒の話、ブランデイの話と、とにかくお酒が大好きなんだろうなと感じる洋酒の紹介がされてます。
竹田 吉田健一に教えてもらったシェリイ酒と日本酒の組み合わせ、最高ですね。
田中 この二つが非常に似ているって書いてあって、いままでそんな風に考えたこともなかったけど、連続して飲んでみたらまったく違和感がない、この飲み方、マジでオススメです。
竹田 シェリイ酒って果実酒なんですよね。日本酒飲んで「お米って果物なんだな」って思うくらい調和してた!
田中 お米は果物じゃないですけど、酔ってます? さっきからビックリマーク多いし(笑)。エッセイに「シェリイ・パアティイ」なんていう、イギリスのパーティのことも書いてあるのですが、これは事実か怪しい話ですね。吉田健一自身も「これは本当かどうか知らないが」なんて書いてるし。
竹田 みんなで持ち寄ったシェリイ酒を大きな鍋で煮て、ガンガン飲むイベントですね。
田中 魔女の集会みたいな光景だ……。
竹田 僕たちは吉田健一みたいにべらぼうに飲むんじゃなくて、節度を守って飲みましょう。
田中 もう手遅れっぽいですけど……。
「今日は、おつまみ選手権です!」
田中 さあ! 本の話もちょっとしたところで、今日は吉田健一おつまみ選手権です!
竹田 なんですか、それは?
田中 吉田健一の別のエッセイ「酒宴」に書かれていた「酒の肴というのは、味がどうとかいうようなことは二の次で、手間をかけずに口に入れられるというのが第一条件」という一文を我々への挑戦とみなして、おいしいおつまみを作ってやろうというコーナーです!
竹田 どんなルールですか?
田中 ルールは2つ!「火を使わないで作れる」「おいしい!」とします。はい、スタート!
(結局また料理をする二人)
田中 はい、できた! 竹田さんできましたか?
竹田 僕はずいぶん前に作り終わって、田中さんのことを待ってましたよ。
田中 早いですね。
竹田 手間をかけずに、ということですからね。
田中 じゃあ、お互いの作ったおつまみを紹介しましょう。僕からいきますね。これは「マグロとアボカドのタルタル」です。
竹田 あー、ズルですね。マグロとアボカドにタルタルソース、正解ですよ。しかもそこにわさび醤油を混ぜたら、食べる前からわかります!おいしです!
田中 なんすか、いちゃもんですか。なんもズルいことはしてません。次は竹田さん。
竹田 「あまらっきょとトマトのオリーブオイル漬け」です。
田中 豪快! オリーブオイルをこんなに使った料理、初めて見ました。
竹田 僕はオリーブオイル大好きなんですよね。
田中 これは飲み物の量ですね。
竹田 この組み合わせは、知り合いの作家さんに教えてもらって。おいしいからアレンジしてよく作っています。それに吉田健一のモットーに忠実じゃないですか。一瞬で作れますし、すぐに食べられる。
田中 次に紹介するのは、僕が作った「さつまいもとりんごの温かいデザート」です。チョコレートってお酒に合いますよね、そんなイメージで甘いおつまみが食べたくて用意しました。
竹田 これも正解ですねぇ。いもとクリームチーズは相性いいですもんね。
田中 最高ですよ。これ、りんごのスライスがポイントですね。酸味が後味を引き締めています。
竹田 これもズルですね。
田中 またいちゃもんばっかり。ルールは、2つだけですよ。
竹田 次は「豆腐と酢魚のぐちゃぐちゃ」です。
田中 その料理名でいいんですか?
竹田 見た目とか味は二の次なんですよ。いかに手間をかけないかですから。しかも、これは騙されたと思って食べてみてください。うまいから。
田中 ……では、料理が出揃ったのでお酒と一緒に実食です!
竹田 シャリイ酒といもチーズリンゴがめちゃくちゃ合いますね!
田中 シャリイ酒は甘口を選びました。甘口なのでデザート的なおつまみと合わせたらいいと思ったんです。
竹田 日本酒とも合いますね。
田中 わかった! シェリイ酒と日本酒って、方向性が一緒なんだ!
竹田 マグロとアボカドは、やっぱり正解ですね。日本酒にぴったりなのはわかるけど、シェリー酒と相性がいいですね。
田中 方向性が一緒ですからね!
竹田 一緒に飲み食いしている僕にはわかるけど、きっと読者には伝わっていないだろう謎のキーワード「方向性が一緒」。
田中 竹田さんの「豆腐と酢魚のぐちゃぐちゃ」、揚げ玉と小肌の組み合わせが、おいしい! さっぱりした魚のフライみたいですね。
竹田 今日はオリーブオイルで作りましたけど、ごま油でもおいしいです。
田中 「あまらっきょとトマトのオリーブオイル漬け」も、甘らっきょの汁とオリーブオイルの相性がこんなにいいんですね。
竹田 そうなんですよ。たまに作って常備食にしてますね。
田中 竹田さんはオリーブオイルが本当に好きですね。今日だけで一ヶ月分のオリーブオイルを食べた気分だよ。
『酒談義』談義
竹田 お酒もつまみも堪能したことですし、「酒談義」の感想をもうちょっと話していきましょうかね。
田中 そうですね。まだまだ、シェリイ酒もあるし話せますよ。
竹田 じゃあ、田中さんの感想から聞きましょうか。
田中 酒に対する愛情が面白いですよね。「誰でもが飲めるから酒なので、金持は別だというならば、金持ちは人間ではない」という最高の一文があります。
竹田 この文章は、凡人には思いつかない味のある文章ですよね。
田中 高い酒のことを揶揄するのではなく、誰にも飲めないような値段をつけてしまっている金持ちの方を皮肉っているところが洒落ています。
竹田 僕は、ほどよくいいかげんな調子で書いていることころがよかったです。
田中 本当かどうかわからないことを書いてある思うと、急にくわしい情報が出てきたりね。
竹田 ちゃんと調査してある情報も大事だけど、勢いと思い出で書いてあるエッセイもいいね。
田中 僕たちの連載も、ちょっと似ているのかもしれない。。。
竹田 気の向くままに料理ばっかりしてますからね。
田中 竹田さん、他に気になる箇所はどこかありましたか?
竹田 お酒の話とは違うんだけど、「老人と海」の思い出が突然出てくるところ、よかったですよ。
田中 竹田さん、ヘミングウェイ好きですもんね。
竹田 ここ「福田恒存訳の、作者が誰だかおぼえてない『老人と海』が出た時の記念会で、その場所もどこだったか思い出せないが、確かなことは、その時、ドライ・マテ二イというカクテルを六杯飲んだこと」って書いてあるんだけど、いまじゃ「老人と海」を名作だと思ってありがたく読んじゃうけど、なんか作者もわからないし、適当に読んでいる感じがすごくいいなと思ったんだよね。
田中 そういう肩肘張らない読み方いいですよね。
お屠蘇気分でお開き
竹田 おつまみの買い出しの時に、実は屠蘇散(*2 写真上)も買ったんですよね。
田中 吉田健一がジンに入れて飲むとうまいっていってたやつだ。
竹田 質の悪いジンに入れるとおいしいけど、不思議といいジンに入れてもおいしくないって書いてました。
田中 闇酒がなくなって、悪いお酒が手に入らなくなったからいじけてた。
竹田 新年ですし、日本酒に入れて飲みましょう。
田中 初めて飲みますね、お屠蘇。
竹田 うちは昔からお正月に、赤いジョウロみたいなやつで飲んでましたね。
田中 ジョウロ???
竹田 あ! そういえば、おつまみ選手権の勝敗は?
田中 新年から、なにをかたいこと言っているんですか! 飲みましょう! かんぱーい!
竹田 田中さんが選手権を始めたのに! ま、いっか!みなさん、今年もよろしくお願いします!
(仲良く飲んだ後、残ったおいしいシェリイ酒をどちらが持ち帰るのか決めるために、相撲をとる二人であった)
次回は、「とってもユニークなレシピ本」をテーマにお届けする予定です。
*2 屠蘇散(とそさん)…山椒、防風、白朮(びゃくじゅつ)、桔梗(ききょう)、細辛(さいしん)、乾姜(かんきょう)などの薬用植物を調合した漢方薬。酒やみりんに浸したものを、邪気払いとして正月に飲む。
文・構成・写真:竹田信弥(双子のライオン堂)、田中佳祐
イラスト:ヤマグチナナコ
著者プロフィール:
竹田信弥(たけだ・しんや)
東京生まれ。双子のライオン堂の店主。文芸誌『しししし』編集長。NPO法人ハッピーブックプロジェクト代表理事。著書に『めんどくさい本屋』(本の種出版)、共著に『これからの本屋』(書肆汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)など。最新刊は、田中さんとの共著『読書会の教室――本がつなげる新たな出会い 参加・開催・運営の方法』(晶文社・写真下)。FM渋谷のラジオ「渋谷で読書会」MC。好きな作家は、J.D.サリンジャー。
田中 佳祐(たなか・ けいすけ)
東京生まれ。ライター。ボードゲームプロデューサー。NPO職員。たくさんの本を読むために、2013年から書店等で読書会を企画。編集に文芸誌『しししし』(双子のライオン堂)、著書に『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)がある。出版社「クオン」のWEBページにて、竹田信弥と共に「韓国文学の読書トーク」を連載。好きな作家は、ミゲル・デ・セルバンテス。好きなボードゲームは、アグリコラ。
双子のライオン堂
2003年にインターネット書店として誕生。『ほんとの出合い』『100年残る本と本屋』をモットーに2013年4月、東京都文京区白山にて実店舗をオープン。2015年10月に現在の住所、東京都港区赤坂に移転。小説家をはじめ多彩な専門家による選書や出版業、ラジオ番組の配信など、さまざまな試みを続けている。
店舗住所 〒107-0052 東京都港区赤坂6-5-21
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