双子のライオン堂書店店主・竹田信弥さんとライターの田中佳祐さんによる連載「料理本の読書会」がスタート! 第1回目のテーマは「おいしいカレーはどこにある?」(前編)
田中 みなさんこんにちは、ライターの田中佳祐です。『街灯りとしての本屋』(田中佳祐著、竹田信弥構成 雷鳥社 2019年)という本を書きました。
竹田 双子のライオン堂の店主の竹田です。東京赤坂で本屋をやっています。
田中 この連載は、小説と料理を愛する二人が、さまざま料理本を紹介していきます。
竹田 料理本ってレシピ本のことですか?
田中 ここは幅広く、レシピ本はもちろん、料理の歴史、料理が出てくる小説や漫画なども紹介したいですね。実際に作ってみたり、レストランに食べに行ったり、料理本の魅力をたっぷり紹介していきます。
竹田 いいですね。取材費で豪遊ですね。
田中 豪遊もいいですが、この連載をきっかけに、レシピ本を出すのが夢です。
料理本の読書会⁈
田中 まず、なぜ本屋店主とライターが急に料理本についての連載を始めるのか、ですよね。
竹田 どの本屋にも料理本コーナーがあると思います。そして、いま増えてるんじゃないかな。
田中 変わった料理本も増えている気がしますね。『Cooking for Geeks 第2版――料理の科学と実践レシピ』(ジェフ・ポッター著、水原 文訳 オライリー・ジャパン 2016年)は、テクノロジーの面から料理を考察する本です。
竹田 『古代メソポタミア飯 ギルガメシュ叙事詩と最古のレシピ』(遠藤雅司著 大和書房 2020年)のような、歴史を紐解きながら実際のレシピも載せている本もありますね。
田中 料理マンガやアニメもめちゃくちゃ人気のジャンルですよね。『衛宮さんちの今日のごはん』(原作:TYPE-MOON、作画:TAa KADOKAWA 2016年~)のアニメ版は下ごしらえがしっかりしててびっくりしました。
竹田 身近なジャンルなんだけど、誰もが読んでるかというと、実はそうでもないんじゃないかな。手軽に手に入れることができて、魅力たっぷりな料理本たちをもっと多くの人に読んでもらいたいと思ってこのテーマでやろうと考えました。
田中 この連載はどんな人に読んでもらいもらいたいですかね。
竹田 ふだんはネットで簡単なレシピを調べて作ったり、YouTubeで料理動画見るけど実際に作ったことはないくらいの人で、本屋さんに行って料理本コーナーを通って、チラ見するけど買ったことがない。そんな東京在住の30代、一人っ子かな。
田中 具体的すぎるよ!
竹田 こういうのは、具体的な方がいいのよ。
田中 ビジネスコンサルかよ! つまり言いたいことは、本を読むのは好きだけど料理本をあまり買ったことが無い人に届けたいってことですね。
雑誌からプロのレシピ本まで~カレー本あれこれ
田中 さっそくですが、今回のテーマを発表してください!
竹田 「夏だ! カレーだ! スペシャル!」
田中 このテンションでずっと連載続けるんですか⁈
竹田 落ち着きましょう。念願だった料理の連載ができるということで、興奮しちゃいましたね。
田中 今回は、カレーの本を一度に5冊読んで、食べ比べちゃおうという贅沢な企画です。
竹田 さっき料理本が増えてると言いましたが、とにかくカレーの本は多い。特に夏は本屋にたくさん並んでるんですよね。
田中 僕たちもカレー大好きだし、料理好きなら必殺のカレーレシピの一つくらいもっておきたい! ということでこの企画を考えました。
竹田 今日はどんな本が登場するんですか?
田中 料理雑誌から、本格的なインドカレーの本まで揃えてみました。
思わぬレシピとの出会い、楽しい豆知識が増えるetc
料理雑誌の魅力とは?
竹田 『きょうの料理』と『オレンジページ』がありますね。僕はあんまり、料理雑誌って買わないなぁ。
田中 僕は図書館に行くと絶対に読みます。大学の頃は、大学図書館でカルチャー紙と料理雑誌を読んでました。『ユリイカ』と『きょうの料理』の発売日は、いちばん乗りで読んでましたよ。
竹田 どっちもいい本だけど、一緒に読むのは食い合わせが良いのか悪いのか疑問ですね。
田中 料理本の楽しさは、やっぱり目的と違うレシピに出会えることですね。
竹田 ネットだと作りたい料理のレシピしか見ないもんね。
田中 特集があったり、料理研究家の人がいくつもレシピを紹介していたり、1冊の雑誌で幅広いジャンルの料理を知ることができるのが楽しいですね。いつもあれこれ作りたくなって、今日の晩ごはんだけじゃなくて、明日の昼ごはんのメニューまで決まっちゃう。
竹田 今、ページをめくって見ているんですけど、確かにいろんな情報が載ってます。読者の投稿ページもあるんですね。料理と全然関係のないデートの話とかも載ってる。これが雑誌のいいところです。『ファミ通』の読者投稿ページ、好きだったなあ。
田中 コラムも楽しくて、ガジェット好きだったら調理器具の紹介とかも楽しめると思います。何よりも良いのが、月刊誌なので、季節感のある料理を楽しめることですね。旬の食材はスーパーでも安いし、おいしい。
竹田 僕は今回の連載のために、久しぶりに読んでみたんです。僕は和食が好きで、しっかりかつお節とか昆布とかで出汁とかをとるのが好きなんですが、この『きょうの料理』4月号に「お酒は米の出汁なんです」ということが書いてあって、目から鱗でした。確かにお酒にも旨味成分であるアミノ酸が含まれているのは同じなので。料理の待ち時間などに、こういうエッセイが読めるのは楽しいですね。
田中 出汁の話になったら、急に真面目ですね。僕はまったく出汁をとらないです、粉末ので済ませちゃう。
竹田 お互いの料理のこだわりを話す機会なんてないから、料理本の読書会をやっても面白いかもしれませんね。
田中 そして、今回のテーマに合わせて『きょうの料理』からは「春野菜のカレー」、『オレンジページ』からは「野菜1つだけカレー」(にんじんを使用)を作ってみることにしました。
竹田 あえての春野菜!
田中 今はね、材料が手に入っちゃうのよ。
竹田 農業の最新テクノロジー!
本格的なレシピ本にも挑戦!
田中 今回、カレーが主役のレシピ本も用意しました。
竹田 『いちばんおいしい家カレーをつくる』、『ベンガル料理はおいしい』、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』の3冊ですね。
田中 竹田さん、こういう本好きですよね。
竹田 何かに特化した本は好きですね。焚き火についてだけ書かれていた『焚き火の本』(猪野正哉著 山と渓谷社 2020年)とかいつ読んでも面白い。『いちばんおいしい家カレーをつくる』は、帯の「ファイナルカレー」っていう名前にさっそく惹かれました。
田中 水野さんは料理番組などでもカレーを紹介していて、有名だと思いますが、著作がたくさん出ていてびっくりしましたね。ちなみに、我が家のカレーのレシピはこの本を参考にしてます。
竹田 『ベンガル料理はおいしい』は、スパイスをたくさん調合したりするので、実際に調理するのが楽しそうだなと思いました。
田中 カラフルなカレーの写真が大きく載っていて、見るだけでも楽しいよね。そして序文が最高です。タブラ(北インドの打楽器)奏者のU-zhaan(ユザーン)さんがどうしてもインドのカレーが食べたくなって、おいしいベンガル料理を作るシタール(北インドの弦楽器)奏者の石濱さんのレシピを個人的に教わっていて、それが本になったという経緯に物語があります。
竹田 『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』は、本当に15分でできるの?っていう検証がしてみたいなという気持ちですね。あとサイドメニューのレシピも載っていて好奇心をくすぐりますね。
田中 『いちばんおいしい家カレーを作る』からは「インドカレー」、『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』からは「ハチミツバターチキンカレー」、『ベンガル料理はおいしい』からは「しし唐辛子のチキンカレー」を作ります。
いざ、食材を探しに!
田中 スーパーにつきました!
竹田 まずは、スパイス買いましょうかね。
田中 えっと、ガマラムマサラとクミンとターメリックと……。よし、全部見つけましたよ!
竹田 あれ? カルダモンは?
田中 カルダモンはホールで買うと……。値段を見てもらっていいですか?
竹田 うっ……、他のスパイスの3倍以上しますね……。
田中 僕たちの原稿料、カルダモンになっちゃう。
竹田 他のものも買って、バランスをみましょうかね。
田中 次は、油を買おう。
竹田 いろいろ必要なんですね、カレーって。このマスタードオイルってなんですか?
田中 インド料理では定番の油ですね。でも、ここには無いから、残念だけど諦めよう。レシピに他の油でも良いって書いてありますからね。ギーはありましたよ。
竹田 なんでカゴに入れないんですか?
田中 1000円って書いてあるんですけど。
竹田 これも、全体のバランスを見て、後で決めましょうか……。
田中 じゃあ、野菜とかお肉を買いましょう。
竹田 骨付き肉とか買っちゃおうかな。そうするとおいしいって、レシピに書いてあるし。
田中 春野菜もちゃんと揃いましたね。トマト缶買うの忘れた! 僕、別で会計しておくんで、レジの先で待ち合わせしましょう。
〜会計終了〜
竹田 あれ? 田中さん、トマト缶にしては荷物が多くないですか?
田中 カルダモンとギーも買っちゃった。
竹田 買ってくると思ってましたよ。
〜会計金額 おおよそ11000円〜
(後編に続く)
文・構成・写真:竹田信弥(双子のライオン堂)、田中佳祐
イラスト:ヤマグチナナコ
著者プロフィール:
竹田信弥(たけだ・しんや)
東京生まれ。双子のライオン堂の店主。文芸誌『しししし』編集長。NPO法人ハッピーブックプロジェクト代表理事。著書に『めんどくさい本屋』(本の種出版)、共著に『これからの本屋』(書肆汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)など。FM渋谷のラジオ「渋谷で読書会」MC。好きな作家は、J.D.サリンジャー。
田中 佳祐(たなか・ けいすけ)
東京生まれ。ライター。ボードゲームプロデューサー。NPO職員。たくさんの本を読むために、2013年から書店等で読書会を企画。編集に文芸誌『しししし』(双子のライオン堂)、著書に『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)がある。出版社「クオン」のWEBページにて、竹田信弥と共に「韓国文学の読書トーク」を連載。好きな作家は、ミゲル・デ・セルバンテス。好きなボードゲームは、アグリコラ。
双子のライオン堂
2003年にインターネット書店として誕生。『ほんとの出合い』『100年残る本と本屋』をモットーに2013年4月、東京都文京区白山にて実店舗をオープン。2015年10月に現在の住所、東京都港区赤坂に移転。小説家をはじめ多彩な専門家による選書や出版業、ラジオ番組の配信など、さまざまな試みを続けている。
店舗住所 〒107-0052 東京都港区赤坂6-5-21
営業時間 水・木・金・土:15:00~21:00 /日・不定期
公式HP https://liondo.jp/
公式Twitter @lionbookstore
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