双子のライオン堂書店店主・竹田信弥さんとライターの田中佳祐さんによる連載「料理本の読書会」がスタート! 第1回目のテーマは「おいしいカレーはどこにある?」(後編)
食材やスパイス、下ごしらえなどの手順を確認して、いざ、料理タイム!
田中 では、食材の紹介です。
竹田 じゃん!
田中 ちょっと待って、5種類のカレーを同時に作るってどうすればいいの……?
竹田 まずは、作戦会議からですかね。
(しばし、レシピとにらめっこする)
竹田 あれ? ししとうと青唐辛子のカレーって、めちゃ辛いんじゃないんですか? 辛いの苦手なんですよ、僕。
田中 そのレシピ選んだの、竹田さんですよね? なんで早く言わないの!
竹田 だって、「しし」って入ってるからさ。双子のライオン堂っぽいじゃん。
田中 よし、手順が決まりましたね。最初に野菜の下ごしらえを全部まとめてやって、お肉の処理をして、スパイスを調合!
竹田 僕はひたすらすりおろし野菜を作ります。玉ねぎとにんじんと、ししとうと青唐辛子もやるのかな。
田中 青唐辛子は種を抜かないとね。僕がやっときますよ。ちょっとかじってみたんですけど、あんまり辛く無いよ。食べてみて。
竹田 わー、やられた! 嘘じゃん、辛いよぉぉぉぉおおお!!!!
田中 え? 嘘でしょ? あ、先っちょは食べても辛くなかったよ。うわ!上の部分、めっちゃ辛い! 青唐辛子ってこうなってたんだ! あと、手がめっちゃ痛い!
竹田 素手でやってたんですか?
田中 こんなにたくさん青唐辛子の下ごしらえしたことなかったから、知らなかった。みなさんはどうか、手袋をして作業してください。
カレー本、それぞれの特徴は?
田中 買い物をして、野菜の処理をして、肉を切ってと下ごしらえに2時間ぐらいかかりましたね。リハーサルなしで5種類同時に作ったんですけど、意外といけたね。
竹田 お肉を漬け込んだりする手順もありました。
田中 さあ、それじゃあスパイスを揃えて、作っていきましょう。
竹田 スパイスそれぞれの味を把握しておくのも大事ですよね。
田中 レモングラスかじってみたら、めっちゃおいしいなぁ。
竹田 おしゃれなドガベンの岩木じゃん!
田中 スパイスを調合するの楽しいですね。今回はホールスパイスとパウダースパイスの両方を用意しました。パウダースパイスは安くて揃えやすいです。
竹田 『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』は、簡単なことばかりかと思いきや、「基本のマサラ」や「基本のミックススパイス」の項目があって大変だけど、一度覚えてしまえば本格的な味が再現できますね。スパイスはちょっと蓋を開けただけで部屋に匂いが充満して、カレーの中にいるみたい。
田中 『ベンガル料理はおいしい』は、ホールスパイスをたくさん使うから、炒めると本格的な専門店みたいな匂いがする! めちゃくちゃ美味しそうだし、あと体に良さそう! レシピが簡素に書かれているので、ちょっと上級者向けの本かもしれません。でも大雑把に作ってもおいしいので、そういう意味では初心者向けでもあるのかも?
竹田 水野さんのレシピはスパイスがシンプルですごく作りやすい。
田中 さあ、仕上げていきましょう。
竹田 僕は「にんじんカレー」(「野菜1つだけカレー」)を作りますね。
田中 じゃあ「春野菜のカレー」をやろうかな。
竹田 「にんじんカレー」は、材料が3つしかない。このレシピはカレールーを使います。友達と作ったら楽しいかも。それぞれの家で使っているものが違うから、お互いの好きなルーで作ったり、混ぜたりしてね。さっき我々も、どのブランドのルーにするか、じゃんけんして決めました。
田中 「春野菜のカレー」は骨付き肉で出汁をとってるから、期待できるなぁ。手順が多かったからガッツリと料理してる感じがあって楽しかった。『きょうの料理』は初心者向けから上級者向けまで、たくさんのレシピが載ってるので、どんどん挑戦すると料理が上手になっていく気がします。隠し味でナンプラーも入って、アジア風の香りがしてめっちゃ美味しそう! あれ? 竹田さんパクチーの根本どこに置きました?
竹田 それ、入れるんですか? 捨てちゃったかも。
田中 ダメダメー。 よかった、あったあった。
竹田 パクチーも苦手なんですよねぇ。
田中 それも買い物中に言ってよ!
竹田 恥ずかしいじゃん。
5種類のカレーが完成! 作ってみての感想は?
田中 完成しました! みなさん、お気づきでしょうか。今回は裏テーマがあります。
竹田 カレーですか?
田中 それは裏じゃないです。今回はチキンカレー対決ということで選んでみました。
竹田 なるほど! ぱっと見、いろんな色のカレーができましたね。
田中 緑のカレー、いいですねえ。
竹田 作っている最中、目が痛かったです。でも、匂いは美味しそう。
田中 さあ、「野菜1つだけカレー」から食べてみましょう。
竹田 めっちゃ甘い! これカレールーは中辛でしたよね。
田中 にんじんと鶏肉だけで、この味になるんだったら、全然アリですね。
竹田 コクは少ないから、あっさり食べられる味ですね。唐揚げとかチーズとか好きなものをトッピングしたら、満足感が上がりそう。
田中 『オレンジページ』をよく見ると、レシピの端っこに「編集部試作メモ」というのがあります。料理のコツやアレンジが一言書いてあるのですが、フォントも小さくて控えめでカワイイ。
竹田 次は、「春野菜のカレー」ですね。
田中 これ複雑な味がして、めっちゃ美味いよ! フレッシュスパイスも入れたし、隠し味もナンプラーやソースとか色々入れてるからかな。春野菜の食感がシャキシャキで、いいなあ。お弁当に入ってたら、めちゃくちゃテンションあがる。
竹田 頑張って、カシューナッツペーストを作ったかいがあった。実はナンプラーも苦手なんですけど……カレーに入れるとおいしいですね。
田中 『きょうの料理』は、最後の方に索引がついているから便利かも。
竹田 作っておいしかった料理には印をつけておけば、いつでも作れて便利ですね。
田中 次は15分でできる「ハチミツバターチキンカレー」です。
竹田 本当にすぐにできちゃいましたね。
田中 やっぱりバターとはハチミツは最強だね。サラダチキンを使ったけど、そんなに違和感はないし、塩味が効いて合いますねえ。これはナンだな。買っといて良かった。
「カレーづくり」のハードルを下げる知恵、スパイスの使い方など、専門家のレシピ本には「使える」知識が満載!
竹田 ほんとに簡単でおいしいから、忙しい現代人におすすめです。
田中 煮込む時間が少ないのがいいですねえ。
竹田 『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』は売れてる本だけあって、インドカレーに挑戦したい人に向けてとても親切に書かれていましたね。
田中 カレーってスパイスとか、香味野菜の使い方とか基本的な知識が必要で、ちょっとややこしいイメージがあります。ですがこの本は冒頭の方に「カレーづくりのハードルを下げる5つの法則」というページが構成されているのもよかったですし、最初に缶詰を使った簡単なレシピから紹介しているところもやさしいですね。
竹田 「インドカレー」は酸っぱい。でも、とても爽やかでおいしい酸っぱさです。レモンを絞っていたのが効いてますね。
田中 この本は、手順が丁寧に書いてあって、本当におススメです。玉ねぎを炒める手順なんかも写真だけじゃなくて、過熱してる最中のポイントや音や香りの目安も書いてあって作りやすかった。
竹田 この味は、はじめて食べました。夏の暑い日に外で食べてもいいし。お米にもパンにもあう。お酒にもあいそう。
田中 僕は『いちばんおいしい家カレーをつくる』の「ファイナルカレー」が本当に好きなんですが、竹田さんにぜひ作って欲しい。
竹田 「インドカレー」がおいしかったし、”最後に行き着くカレー”っていうのは気になります。
田中 水野さんのレシピは、肉に香りをつけたり、柔らかくする役割としてマリネすることが書いてあって、他の料理にも応用できるんです。
竹田 どのレシピも難しい手順はないから、料理に苦手意識がある人への入門書としておすすめしても良さそう。
田中 「ししとうカレー」、これヤバイ! びっくりするほど美味い。辛くないから食べてみてくださいよ。
竹田 また……嘘で……う、うまいね! 辛くないことはないけど、青唐辛子だけ食べた時はどんな辛い食べ物になるかとビビっていましたが、辛いだけじゃなくて、まろやかさがありますね。んー、だんだん辛くなってきて、汗もすごい出るけど、嫌いじゃない!
田中 高いホールのカルダモンとギーを買って良かったなあ。僕は絶対に家でもつくりますよ。苦味と甘みと、スパイスの香りのバランスが最高ですね。大人の味だなあ。
竹田 スパイスたくさん余ってるから、まだまだ作れますね。一度揃えちゃえば、しばらくは使えそう。
田中 『ベンガル料理はおいしい』のレシピをみると、一見するとたくさんの食材が載ってるようにみえるけど、実はほとんどスパイスなんですよね。食材はナスだけだったり、ジャガイモとタマゴだけだったり。
竹田 スパイスの使い方さえ覚えちゃえば、手順も少ないから、副菜のレシピとしてめっちゃ使えそうだよね。個人的には「トマトとパイナップルのチャトゥニ」がすごく気になった。唐辛子をいれてるんだけど、甘くて辛いってどんな味なんだろうって作りたくなった。
5種類のカレーを作って、食べ比べてみたら……
田中 5種類のカレーを作ってみましたけどどうでしたか?
竹田 なかなか同じ料理を一気に作って、食べることなんてないから、貴重な体験でした。あと、カレーと一口に言っても、いろんなタイプのものがあるし、カスタマイズもできちゃうから、奥が深いです。ブームになるのもわかります。人の探究心をくすぐる。これだけたくさんのレシピを見比べても同じものっていうのは無い。次々に新しい出会いができるのもレシピの楽しみですね。
田中 5つの料理本を読み比べながら料理を作っていくのは、面白いですね。料理も料理本も、自分の好みが分かってからが楽しいと思うんですよね、好きな味付けとかお気に入りの調味料とか。料理本は同じジャンルでも情報量がぜんぜん違う、カタログみたいに簡素にレシピがたくさん書いてある本もあれば、掲載レシピは少ないけど、調理手順を写真付きで丁寧に書いてある本もある。
竹田 そうそう、このレシピ本、汚れちゃったけど、こういうのもなんかいいですね、思い出というか。実家の母が使っているレシピ本がすごく古くてぼろぼろなんで、買い替えればいいのになって思ってましたけど、あれはレシピ本自体に、本当の意味で人生が染み込んでいるものがあるのかな、なんて思いました。
田中 いい話っぽくまとまりましたね。
竹田 カレーいっぱいできちゃったけど、どうしよう。
田中 僕はスパイスもらうんで、カレーはあげますよ。
竹田 やった! んー、どっちが得なんだろう……。
次回は『フィッシュ・アンド・チップスの歴史 英国の食と移民』(パニコス・パナイー、 創元社)をご紹介する予定です。イギリス料理のレストランを訪れ、本格的な料理を食べながらお届けします。
文・構成・写真:竹田信弥(双子のライオン堂)、田中佳祐
イラスト:ヤマグチナナコ
著者プロフィール:
竹田信弥(たけだ・しんや)
東京生まれ。双子のライオン堂の店主。文芸誌『しししし』編集長。NPO法人ハッピーブックプロジェクト代表理事。著書に『めんどくさい本屋』(本の種出版)、共著に『これからの本屋』(書肆汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)など。FM渋谷のラジオ「渋谷で読書会」MC。好きな作家は、J.D.サリンジャー。
田中 佳祐(たなか・ けいすけ)
東京生まれ。ライター。ボードゲームプロデューサー。NPO職員。たくさんの本を読むために、2013年から書店等で読書会を企画。編集に文芸誌『しししし』(双子のライオン堂)、著書に『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)がある。出版社「クオン」のWEBページにて、竹田信弥と共に「韓国文学の読書トーク」を連載。好きな作家は、ミゲル・デ・セルバンテス。好きなボードゲームは、アグリコラ。
双子のライオン堂
2003年にインターネット書店として誕生。『ほんとの出合い』『100年残る本と本屋』をモットーに2013年4月、東京都文京区白山にて実店舗をオープン。2015年10月に現在の住所、東京都港区赤坂に移転。小説家をはじめ多彩な専門家による選書や出版業、ラジオ番組の配信など、さまざまな試みを続けている。
店舗住所 〒107-0052 東京都港区赤坂6-5-21
営業時間 水・木・金・土:15:00~21:00 /日・不定期
公式HP https://liondo.jp/
公式Twitter @lionbookstore
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