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調香秘話

ある日薔薇院では香水が流行っていた。
一時の流行であったが、それが降薔の目を引いたのだ。

庭は薔薇の匂いが漂い、廊下には薔薇が散ったように派手だ。ここまでくると鼻につく。

「どこも薔薇の匂いで嗅覚が意味をなさないな」
さっと通り抜けていく香りは意外と趣向が凝らされている。あれは、、最近人気のあの品種だろうか、、ってこっちは園の薔薇じゃないか?!

困惑しながらも少し興味が出てきた。ねーさんも興味を持つかもしれない。誘ってみようか。
香を土産に別館のアプロの部屋のドアを訪れた。

「こーば、君大胆だね??」
「なんというかとても君のイメージにない、印象的な匂いだよ」彼女は鼻をつまんで顔を顰めた。

「で、こーばちゃんから訪ねてくるのは珍しいね。どうしたの?クレーム?」
「それは別件ですよ」
「今、薔薇院では香水が流行ってるんですよ。しかも薔薇園の花を勝手に使ったものが」
ざっと十種類ほど小瓶を出した。
「もはや薔薇園の住民みたいなねーさんなら見分けられますよね?」 煽ってみた⭐︎。

「ふうん、手段は問わない?」
「ねーさんが判るのなら問いませんよ」
「言ったね。嘘はなしだよ。かわいいかわいいこーばちゃんの友達の前では」
?、??、?、「えっ?」

別室から親しんだ青髪が見える。
まちがいなく、籠目ちゃんだ。
「待ってねーさん!!なんでかごちゃんがいるの?!呼んだなら言ってよ!!」
やばいやばい髪整えてないし普段着だし何より歓迎する準備ができてない!!!

「LINE交換してたんだよ⭐︎確か仲良いのに部屋に呼んだことないんでしょ」ぐうの音も出ない。
だって部屋汚いし。、

「まあまあこーば、客人が困ってるよ?ちゃんと手を引いてあげな」 趣味が悪いな。
「降薔ちゃんのお姉さんに誘われてきたんだけど、急だったねごめん。」後ろめたそうだ。

「いやいいんだよかごちゃん。報連相がなってない姉が悪いの。だから気にしないでね」
「1億歩譲って勝手にかごちゃんを呼んだのはいいけどさ、この香水の茶番に付き合わせるの?」

「良いじゃん。テイスティングはやった事あるけど感覚だけじゃつまらないでしょ?籠目ちゃんは研究職なんだから研究として手伝ってもらおうよ。
「面白いこと好きでしょ」これは悪魔の囁きだ。

観念してテーブルにいくつか香水を並べた。
「なんだこれ全部透明だから全然わかんない」
籠目は頭を抱えた。
「だからこそ調べる価値があるんだよ」
そう言われてしまうと、籠目は一つ瓶を手に取り考え込んだ。
「うーーーーん、?これって、全部同じ種なの?特徴がなさすぎる」
彼女が持っていたのは銀細工の蓋の瓶だ。
次に薔薇の金細工の瓶を渡すと
「より分からなくなったよ。こっちの方が匂いが甘いのかな。でも前のも結構甘かったような、、、」
もうその場から動かなくなって没頭し始めた。

「いやー真剣になってる若者はかわいいね」
そうじゃなくて、貴方が探してくださいよ。
「流石に半分くらいは分かってるよ」
でもねーさんに出した問いですからね。

籠目いやかごちゃんは悩んでいた。
ここには機材も道具もないから特徴やサンプルがあっても調べようがないのである。
その時籠目は思い出した
「何かあったら頼りな」ししょーがそう言ってた!!!!!!!!
言質があるならいいよね。とおもむろに携帯で師匠に電話した。どうせならビデオで。

「こんにちは降薔さんアプロ・アティさん、籠目の保護者の十薬です。いつも籠目がお世話になってます。」 お母さんみたい。

「ちょっとししょーに頼みたいことがあって、かくかくしかじかで薔薇の匂いデータ欲しいの」
「うーん。それはちょっとマニアックなデータだよ籠目、少し待っててね。ロツェさんに聞いてくる」
結果ロツェさんのところにデータはなかったらしい。でもご厚意で花の本をデータ化して送ってくれた。さすがデジタル人間。

一方薔薇院組
「あの親子(あだ名)並んでると姉妹みたいだね」「まあ似た感じじゃないですか?」

降薔は花瓶に薔薇を集めて、籠目はデータ端末で薔薇の特徴を細かく確認した。十薬も書類を捌きながら籠目の疑問に答えていた。
「a品種ってf種とn種の交配種でしたっけ?」
「そうだよ。ちなみに今降薔ちゃんがもってるのがn種。j種の特徴的な顕性遺伝から進化した種だよね。」難しくて全然わからない。

最終的に薔薇の品種の特定は出来なかった。が
ざっくりとした種類の傾向は掴めた。
後はアプロの仕事だ。選択肢があるならばもう大丈夫だろう。

「この瓶とあそこの左端、そこから右斜め、これとこれが薔薇園の薔薇だね」
「特に貴重なのは真ん中の#種だね。持ち出し禁止なのにな。また植え直さないといけないね」
「あと、薔薇以外も入ってるのが2本あるね。モスクとベルガモットでしょ。ずるいよ」
全部当てられてしまった。
やっぱりかごちゃんの分析力は凄いな。
ねーさんはべつにいいや。すまし顔だし。
しかし仕込みが1時間で当てられるとつまらないな。
残念な気持ちで紅茶を啜った。
「嗜好品も結構楽しいね降薔ちゃん」
でもかごちゃんが楽しそうだから良いか。

大人組トーク(入れるところがなかった)
「うちのこーばちゃんかわいいでしょ、トヤさん。そっちはどちらもお可愛いけれど」
「いや、アティさん。私は男性ですから“可愛い”は似合いませんよ。あと籠目の方が私より純粋で頭も良くて可愛いんです。」
「結構寡黙そうなのに案外弟子のことは喋るんだね。」
「ご存知の通り可愛いですから。」
「籠目は体力がなくて、たまに力尽きてすみませんね。せっかくの友人ですから生活指導しようかと。アティさんもいかがです?初診割引しましょうか。」

「ぜひ機会があれば。まあ、まずはあなたの警戒心がなくなって欲しいのだけれど。難しいですか?」
「愚問ですね。初対面でもないのに毎回同じイジリしてくるのは何ですか?貴方は変人ですか?」

話が微妙に噛み合っていない大人組。

余談
降薔と籠目はソファで二時間ほど寝落ちたあと、先に籠目が起きて降薔にブランケットを掛けて
「バカでもわかる!すうがくドリル」を置いてアプちゃんにお礼を言って帰ったよ。






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