西野亮廣から学ぶ、覚悟の持ち方と強さ
キングコング西野亮廣さんによる、自分のマーケティング戦略の解説書。何か新しいことをするたびにメディアでバッシングされることが多い西野さんが何を考えて行動しているのか、どうして西野さんが発信するものがマネタイズ化されるのかがよくわかる。
軸になるのは2016年に西野さんが発行し、 累計発行部数40万部(2019年時点)となった絵本『えんとつ町のプペル』。この本を売るために、①売れるように中身をつくる ②発売前に話題化させるよう仕掛ける ③買い手の心理に寄り添い、利益を目先でなくもっと先に置く ④自分の時間を使って宣伝するのでなく、人を巻き込み広告する ⑤批判を自分に集中させながら、きちんとマネタイズ化させる といったような重厚な仕掛けを散りばめつつ、何年も準備してきたことが伝わってくる。
どの章もとても勉強になるし、あまり要約すると西野さんの本意がきちんと伝わらなくなると思うので、個人的に面白いなと思ったポイントを中心に。
1.自分の立ち位置に自分で責任をもつという覚悟
西野さんは自分に何が必要なのかを冷静に見極めている。本書内で例に挙げられたベッキーとゲスの極み乙女。の川谷絵音の不倫問題では、万人受けだったベッキーは一時期テレビから姿を消したが、川谷はアーティストとしてのコアファンを獲得しているので生き延びたと分析。
同様に、西野さんも万人受けはいらない。万人受けに紐づくスポンサーはいらないという姿勢を一貫している。その代わり大事にするのは自分の考え方に共感してくれるコアファンの存在。お金は信用を数値化したものであり、そのためには信用を獲得する行動が大事だと説く。
タレントとして信用を勝ち取る為に、まずは「嘘をつかない」ということを徹底した。仕事だからといって、マズイ飯を「美味い」とは言わない。それが、「美味い」と言わなければいけない現場だとしたら、そもそも、そんな仕事は受けない。
この姿勢は、万人受けを捨てる覚悟が必要だろう。そして①自分の意思を明確に表明すること ②嘘をつかなくてもいい環境をつくること が大事で、そのために「それをやっても自分が大丈夫な土壌をつくる」といいと言う。実際に西野さんはコアファンをマネタイズ化させるオンラインサロンを開いており、西野さんのその姿勢に惹かれたファンが集まるというWin-Winの関係性を築いている。これが信頼というものだろう。
2.世の中や人を分析し、先読みして行動する冷静さ
現代でモノを売るなら、当然、現代人の動きを読まなければならない。そして、先回りして、売り方をデザインする必要がある。
「えんとつ町のプペル」は絵本として販売された後にウェブ上で無料公開され、当時大きな話題を呼んだ。当初は無料公開によって出版社やクリエイターが得られるべき収益がなくなるという批判も多かったこの施策は、結果的に書籍の売り上げを底上げすることになった。
この無料公開は単なるボランティアではない。「おもしろい絵本に出会うための時間がない」「一つ一つにお金をかけられない」という母親が絵本を探す時の心理を読み解き、まずはウェブ上で公開して品質を保証する。そして読み聞かせとしての絵本の特性を書籍に託すことで、購入までの導線を引いたのだ。
感情に支配されず、常識に支配されず、お金に支配されず、時代の変化を冷静に見極め、受け止め、常に半歩だけ先回りをすることが大切だ。
この冷静さ、先読み力が西野さんの真骨頂だろう。
3.アンチファンの存在も活用するハングリーさ
1でも述べたように、西野さんは万人を迎合しないため、アンチファンも多い。2のように世の中の話題となり、批判の対象となる施策も多いからなおさらだ。
そして、SNSで匿名性が保たれる今、西野さんに直接批判のコメントが届いたり、テレビでコメントを求められたタレントが名指しで批判を行ったりする。
しかし、それらは西野さんを傷つけることができておらず、むしろ西野マーケティングに活用されている。一般のコメントは公式TwitterでRTし、批判も表面化させることでコアファンに対して常に自分の姿勢を表明させている。そしてメディア上で話題にのぼることは自分や自分のコンテンツに注目が集まるいい機会だと捉え、広い意味の広告だと考えている。
1日24時間のところを、1日30時間、1日40時間・・・と増やすには他人の身体をお借りし、他人の時間を奪うしかない。そこで、「どういうアクションを起こせば、他人が自分に時間を使いたくなるのか?」を考える。
悪い捉え方を無意味に増加させたいわけではないだろうが、できるだけ多くの人に届く(届けられる)方法と、その中で必要な人だけが残ればいいという考え方、そしてどれだけ批判されてもコンテンツで見返すという、緻密な戦略に基づいた自信があるからこそ成せることだろう。
ひたすら、その自信をつけるための計り知れない努力がすごい。
4.目先の利益でなく、最終的な利益を考える
『えんとつ町のプペル』では、制作する際と個展を開催する際、クラウドファンディングが行われ、6257名から4637万3152円が集まった。しかし、これは設けるための仕組みではない。リターンとして一つ一つの絵本に対して自分のサインをつけて送ることや、自分のトークショーをつけたため、むしろ負荷が大きな施策といえる。
しかし、ここで狙っていたのは収益化ではなく話題化。人数や金額がニュースとなりメディア露出することや、予約人数の確保、リターンで本を手に入れた人たちが確実に読んで広めてくれるという広告効果。この見返りを見据え、目の前の負荷をやりのけたのだ。
ほかにも、前述した絵本の無料化はその後の書籍購入を後押しするため。万人に迎合しないのは、コアファンを大事にする方が自分の考え方に共感した仲間を集めていくことができるためと、すべてのことにこの考え方は一貫している。
広告を作る時は、自分の手から離れても尚、「広告の連鎖」が自然発生する基盤を作ることが大切だ。
基盤をつくる、これがどれだけ難しいことか。先読み力があるからこそ、できるのだろう。
そしてその考え方を貫くための努力。『えんとつ町のプペル』の発売から1年間。毎日朝4時に起きて、サインを入れて、レターパックに贈り先の住所を書いて、郵便局に電話を入れて、郵送手配。1年間毎日行い、2万冊の本を自分で届けたらしい。
この努力があるからこそ、何事にも説得力が発生し、信頼される。
答えはいつも「行動」が教えてくれる。
負けない(負けようがない)下地を作って、頃合いを見計らって勝負に出る。基本的に、「まず考えてしまう」という行為は総じておこがましい。
情報は、行動する人間に集まり、更なる行動を生み、また情報が集まってくる。努力だ。圧倒的努力。これに尽きる。
noteを始めて1つ目の記事でこんなに長々と書くとは思っていなかったが、それほどまでに素晴らしい内容の本だったと思う。
個人的に、今の私にとても響くのは上の二言。考える前に行動する。負けないための下地をつくる努力をする。
プロフィールにも書いたが、今の私は周りに劣等感をもたないですむように、自分の言葉を自分の中に蓄積したいという状態。まさに、情報を集めるために行動するのが一番だと思う。
最初に出会ったのがこの本でよかった。
ぜひ、皆さんも西野さんの『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』を読んでみてください!