アジア紀行~ミャンマー・バガン⑨~
午後4時、再びバガン遺跡へ
遅い昼食を済ませたあと、一旦ホテルへ戻る。適度な休憩をとらないと、この暑さに対抗できない。幸いレンタルの e-bike は快適で、オールド・バガンから5kmほど離れたホテルまで10分ほどで移動できるので、ありがたい。
1時間ほど休憩しながら、この後訪れる寺院遺跡を地図で確認する。
午後4時、再び出発。
Ywa Haung Gyi Temple
朝と同じくホテル前の道路(Anawrahta Road)を、オールド・バガンの方面にバイクを走らせる。右手に赤っぽい寺院が見えてきた。「ユワハウンジー・テンプル」と読むのだろうか。午前中は素通りしたので、今回はちょっと立ち寄ってみる。
だれも訪れる人がいないのか、周囲は静寂が支配している。祠堂の入口からそっとのぞくと、仏様の姿がうす暗闇に見える。
そのとき、突然うしろから声をかけられる。
「Put off your shoes!」
しまった、サンダル履きのままだった。
注意したのは、まだ若い青年だった。
「Sorry!」
あわてて裸足になる。
ここは観光地である前に信仰の場所なのだと、あらためて実感する。
仏様の前で手を合わせる。この仏像も右手を地面につける触地印だ。
この道路の左右には、大小さまざまなこんな寺院がたくさんある。どの寺院にも、このような仏様が祀られていて、何百年もの間、この土地の人々の信仰の対象として大切にされてきたのであろう。
シュエサンドー・パゴダ
(Shwesandaw Pagoda)
オールド・バガンの南東、バガン平原にひときわ高くそびえるパゴダがある。それがシュエサンドー・パゴダだ。
バガン王朝の最初の王とされるアノーヤター王の時代、1057年から1070年に建立された仏塔である。
方形の基壇のうえに5層のテラスがあり、中央に釣鐘型の塔がある。高さは約50mで、テラスからの眺望はすばらしい。朝夕の日の出・日の入りを見る人気スポットになっていて、夕刻にぜひ訪れたいと思っていた。
下から見上げると、真上にそびえているような感じがする。あの急階段を上らないと、五層目のテラスにはたどり着けない。手すりを持ちながら、一歩一歩上る。
やっと五層目までたどり着く。ホッとして下を見ると、人の姿があんなに小さく見える。すごい角度で上ってきたことがわかる。お尻から背中にスッと冷たいものが走り、足がすくむ。高いところは苦手だ。降りるときのことは、しばらく考えないでおこう。
まだ5時をまわったばかりだから、日没まで間がある。東西南北すべての方角に展望が広がる。
北の方角に、昨日訪れたアーナンダ寺院の塔が見える。
少し左に目をやると、昼間に訪れたオールド・バガンのタビィニュ寺院がそびえている。
東の方向を見ると、森の中に巨大な仏教遺跡が見える。ダマヤンジー寺院だ。西日を浴びてひときわ赤茶色に染まっているようだ。あそこも是非訪れたい。
反対の西側を眺める。遠くにエーヤワディー川の流れがかすかに光っている。
南側はどこまでも続くと思われるバガン平原だ。たくさんのパゴダや寺院が散在している。
日が沈むのは6時45分ごろだそうだ。まだだいぶ時間がある。西の空は雲に覆われていて、太陽の姿は見えない。
それでも日没を見ようと、少しずつ人が増えてきた。
のんびりとした時間がゆるゆると過ぎていく。
テラスから見上げると、大きな仏塔の先端がすぐそこにあった。
西の空がかすかに茜色に色づいてきた気がするが、雲は晴れそうにない。残念ながら今日はバガンの夕焼けを見ることができないようだ。
それに、e-bike の返却時間が午後7時までなので、そろそろ戻らなければいけない。
再びあの急な階段を一歩一歩降りる。上りより下りの方が急角度に見える。地面に下り立つと、肩の力が抜けホッとする。ホテルまではバイクで10分ぐらいだが、暗くならないうちにホテルに戻るに越したことはない。道路には街灯などなく、夜は真っ暗になる。
この日の夜は激しい雨になった。
バガン2日目の夜が、雨音の中で更けていく。