ビリヤニ考察: 火入れの3段階
かの有名な水野仁輔氏の功績でも、最大のものの一つとして玉ねぎの火入れの6段階表現があります。それぞれ色合い的にウサギ・イタチ・キツネ・タヌキ・ヒグマ・ゴリラに例えた表現で、感覚的にとても掴みやすく、また動物に例える楽しさがあります。
ビリヤニのそれぞれの材料・要素やその組み立てを考える際にも(もっと言えばビリヤニ以外の料理を作る際にも)、この火入れというのはとても重要な意味を持っています。今後説明をする上でも言葉を揃えておいた方が良いので、本稿では火入れに関しての考え方とその表現について少し書いておこうと思います。
ここでいう「火入れ」の定義とは
例えば「玉ねぎをきつね色に」と言った場合、おそらく何らかの大きさに切られた玉ねぎ片が、全体としてどの色に近いか?という点に焦点があたるように思います。
本稿で説明する「火入れ」はそれと異なり、特定の素材の特定の箇所がどうなっているのか?という点にフォーカスします。同じ玉ねぎでも表面と内部で状態が異なる場合は、それぞれ異なる火入れが混在している、というような考え方をします。
また、味や香りの組み立ての上でも、火入れが異なるとそれぞれ違った要素として扱います。あまり細かくしてもかえってまとめにくいので、3段階程度にざっくりと考えています。
L(レベル)0の火入れ 〜 生
まずは生、つまり火が入っていない状態です。トッピングに載せる玉ねぎやハーブ類、場合によっては「結果として火は入ってしまうが、火が入っていない状態を加える効果を狙いたいもの」もここに含まれます。例でいうと、最後に少しだけ生ですって加えるニンニク・生姜のようなイメージです。カレーリーフをテンパリングするようなものは、ここには含みません。
L1 〜 火が入っているが、香ばしさは出ていない状態
加熱による変性が起こっており、なおかつ焦げ目などの色づきはない状態です。「玉ねぎが透き通った」ような状態、ウサギ色はここに相当します。肉であればロゼもブラウンもここに相当しますが、表面の焦げ目はここに相当しません。
玉ねぎは辛味が飛んで、本来の甘さが出て来ますが、カラメル化反応もメイラード反応は起こっていないので、甘みの凝縮も香ばしさの添加もまだありません。良くも悪くも有名なボイルドオニオンは、この状態の玉ねぎをストックしておくことで、画一的な甘み・旨味を楽に生み出す秘訣と言い換えることができます。
L2 〜 香ばしくなっている状態
焦げてはいないけど十分な加熱で香ばしく色づいた状態で、カラメル化やメイラード反応が起こっていることなどを意味します。鍋のこびりつき、肉の焼き目、加熱により褐変した唐辛子、フライドオニオンが色づいてサクサク香ばしい箇所はこれに相当します。
飴色玉ねぎを筆頭に、イタチからヒグマまではその比は違えどL1とL2の混在です。比べて、スライサーで薄く均一にした玉ねぎから作った全体ブラウンのフライドオニオンや、ゴリラはほぼL2のみ(場合によってはL3混在)です。L1のトマトは味の凝縮を狙えますが、酸を飛ばすにはL2が必要、といった考え訳をします。
(L3 〜 焦げている状態)
基本的には狙いません(なので本来は表題の3段階には入りません)が、調理する上では起こりる状態ですので触れておきます。また、今後別稿で触れる香り・風味の組み立て方において、焦げは少量であればダウナー系に寄与します。行きすぎると失敗ですが、焦げの部分を取り除くことができれば問題ないケースも多いので、味見で確認してから対処法を検討すると良いでしょう。新しい発見があるかもしれません。
ちなみに、本稿の写真は1時間レシピの玉ねぎおろしを、こびりつきやすいアルミ製の雪平鍋で炒めているところです。写真写りの兼ね合いもあって実物よりも黒いですが、見た目に反してこのこびりつきはほぼL2で、この後トマトジュースで煮溶かして美味しいビリヤニになりました。白い部分はもちろんL1です。
それぞれの材料に、ざっくりとこの3段階を当てはめて、味や香りの組み立てを考えます。詳細についてはまた別稿で触れたいと思います。