雨の郡上八幡
開店当初の2018年、蒸留酒のお店をやる上で変わったお酒を置きたいなぁと思っていたところ、当時からかなり話題になっていた蒸留所がありました。
岐阜県の郡上八幡にある辰巳蒸溜所で、まだ若いオーナーが1人で蒸溜所を切り盛りしていると言います。世界中を渡り歩いてお酒を飲んだりあちこちで修行した後に、単身で蒸留所を拓くというそのスピリッツにどこか共感するところがあり、また他の縁で何度かそこのお酒に出逢う機会もあったので、よしこれはうちの店にも置こうという話になりました。
しかし辰巳のジンは当時からすでに入手困難なほど人気が高くなっており、オークションではとんでもない値段がついています。たまたま見かけたら買うようにはしていましたが、これはいっそ顔を見がてら郡上八幡まで行ってみるか、とふと思い立ってしまいました。いつもの「伊達と酔狂」です。
蒸留所は普段は人を受け入れているわけではないので、イベントやバー営業がある日でもない限り直接話ができるわけではありません。それでも郡上について最初に見つけた酒屋さんで、いきなり辰巳のジンが置いてあるのを見つけました。1人一本までとなっていますが、酒屋さんは「なんでこれの薬ビンがそんなに人気なのかわからないのよねぇ」と怪訝な顔でした。
郡上八幡はきれいな水が豊富な情緒深い街です。吉田川を横目に街中を水路が回らされおり、その水音だけで癒されます。街おこしや他地方からの受け入れなども取り組んでいて、目抜き通りでは意思を持ってここで挑戦しようというお店の活気が見られます。辰巳の話もここそこで聞きましたが、街に水に受け入れられてるなぁと素直に感じました。
また、郡上八幡は郡上おどりでも有名です。そんなこんなで訪問も数回を数え、さくらももこ御用達の鰻の味も覚えた頃、郡上おどりにも参加してみたいよね、と店主練は盛り上がりました。夜を通して踊り明かす、街を上げたRaveです。
早速宿を調達し、にわかで多少のルーティンを覚え(でも春駒だけですが)、静岡のサウナで身と心をととのえ、いよいよ準備万端。マイ郡上下駄つくっちゃうぞとテンションもアゲアゲ。しかし郡上に着いてみると、天気は雨でした。
イベントは実行されるのかどうか不安でしたが、多少の雨では取りやめないほどの踊りへの熱意は話に聞いています。雰囲気では、雨の具合を見つつも実行する感じがします。とにかく下駄は作りに行こう、とまずは下駄を調達して様子を見ることにしました。
しばらくして、いよいよ山車が引かれ、踊りが始まります。踊り手は透明のカッパを着ておりちょっと不自由そうです。周りは傘をさした見物客で混み合っています。
「うーん、これ、踊る?」
とこの辺りで酔狂の酔いは一気に冷めてしまい、結局何軒か飲み食いしてから宿に戻って寝てしまいました。郡上は鰻や川魚以外にもけいちゃんなどがあり、バーこそほとんどないものの2〜3日は楽しく過ごせます。
結局マイ郡上下駄は新品のまま持ち帰ることになり、今では近所の散歩にたまに使われる程度の出番となりました。買い貯めた辰巳のお酒は、お店のドアの向かいの棚で、今でもご来店のお客様をカラフルにお迎えしています。
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