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生後8カ月の散歩再デビュー

家族のなかで一番暇だからという、微妙に納得のいかない理由で子犬の朝晩の散歩を担当することになってはや数ヶ月。

当初は右往左往しつつも、一日も欠かすことなく毎日繰り返してきた甲斐もあり、ようやく板についてきたかと思っていた矢先、再び振り出しに戻ったかのような感覚を味わったここ最近のことである。

なぜかと言えば、かねてから懸念していた子犬の首への負担と散歩中のすっぽ抜けを防止するため、Y字型のハーネスとダブルリードを購入したからだ。

実際に手にしたこれらの造りが想像以上に良かったことに気を良くした私は、さっそく意気揚々と子犬にハーネスを装着しようと試みるも、案の定すんなりとは着けさせてもらえない。

子犬は輪っかになったハーネスを頭から首へと通す最初の工程が怖いらしく、狭いサークル内をひたすらに逃げ回る。

結局、食べもので釣ってごまかしつつ、なんとか頭を通した後は子犬は抵抗することをやめたので、そこから先のベルトをお腹の下へ通してバックルで留める工程はすんなりと行うことができた。

ダブルリードのナスカンを首輪とハーネスに連結して完成したものの、子犬はすっかり意気消沈した様子で、パピー期に購入した間に合わせのハーネスを無理矢理装着したときと同じように、そのままフリーズしてしまった。

普段であれば、リードを首輪に繋いだら一目散に玄関へと向かうはずの子犬は、しっぽはだらりと垂れ下がり、うつむき加減の顔の表情には覇気がなく、サークルの出入口を開け放ってみても、その場から一向に動こうとしない。

再び食べ物で釣ってみようと試みるも、普段与えている犬用おやつには見向きもせず、ならばと思い、散歩中に拾い食いしそうになった時のように特別な時にしか与えていないデンタルガムを与えてみた。

いつもなら何かに夢中になっている時でも即座にその行為を中断して駆け寄ってくる切り札であったはずなのに、子犬は全く反応せず、変わらずフリーズしたままである。

手持ちのカードを使い切り、さてどうしたものかと思いきや、そういえばと思い、サイコロ状に小さく切った食パンを与えてみる。

訝し気な態度で警戒しつつも、差し出された食パンを食べ始める子犬。
そのまま続けて残りの食パンをチラつかせて玄関へと誘導しているうちにしっぽはくるりと巻き上がり、最後の一切れを与えると同時に無事に玄関から出ることに成功した。

子犬はいつも、私たち家族が朝食で食べている食パンの端切れを、おこぼれとして家族全員からもらっている。

そうか、君はこれが一番好きだったのか、という思いとともに、食パンの与えすぎによる小麦アレルギーの発症が心配になったりもした。

一旦外に出てしまえば調子を取り戻せたようで、子犬は興味の赴くままに歩き始めるも、普段と明らかに様子が違うことに気が付く。

結論から言うと、リードの引っ張りが激減した。
体感値でいうと、従来の10分の1といっても過言ではないくらいの変化である。

身体へのハーネスの干渉や、ダブルリードの重み(今まで使用していたものよりかなり重たい)による影響かもしれないが、散歩中の歩調がかつてないほどに緩やかになったのだ。

緩やかになったからと言って元気がないわけでもなく、匂い嗅ぎやすれ違う人や犬への好奇心は健在ではあるが、従来のような激しい興奮は見せたりせず、どちらかと言えばリラックスしたような雰囲気を醸し出しているように見える。

この様な落ち着いた状態は、ハーネスとタブルリードに慣れるまでの一時的なものなのでは?と思ったりもしたが、一週間経過した現在でも継続している。

これは勝手な想像であるが、興奮した状態で首に強い負荷がかかることで、余計に興奮を煽ってしまっている様な気がしている。
苦しければ苦しいほど、アドレナリン的な何かによってヒートアップするのではないか?

真相はどうであれ、結果的に我が家の子犬はハーネスへ切り替えたことで、それはもう見違えるほどに落ち着きを払うようになったのだ。

涼しくなってきた休日の夕暮れ時、子犬とともに穏やかに歩ける時間は何事にも変え難い。

いいことずくめのようであるが、実は少し弊害があったりもする。
それは、散歩にかかる時間が延びたということだ。
リラックスしてゆったりと歩く分、子犬は道端の匂い嗅ぎや草喰みを今まで以上に入念に行うようになった。
それはまるで、散歩デビューしたばかりの、一向に先へと進まなかったあの頃を彷彿させる。

しかし、そんな子犬に私はとことん付き合うことが出来るのだ。なぜならば、私は家族の中で一番暇な人なのだから。

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