去勢をしないという選択

ここ最近ずっと悩んでいた子犬の去勢手術について、散々悩んだ末、手術は受けないことにした。
そう決めた瞬間、胸につかえていたものが取れた気がした。

実は、子犬を迎えた当初は去勢手術は受けるつもりでいた。

なんとなくそれが一般的なことだと思っていたし、妻からは「去勢しないと家中にマーキングされるから、絶対にしたほうが良い」と言われていたため、適性期であるとされる生後6ヶ月を過ぎたタイミングで手術を受ける心づもりでいた。

けれど、その時が近づくにつれて、少しずつ心の中に迷いが生まれ、日を追うごとにその迷いは肥大していった。

8月の初旬、ついに子犬が生後6ヶ月を迎えた。
子犬を車に乗せて、妻と共にかかりつけの動物病院に手術の相談に行った。

実際の施術映像を大きなモニターで見せてもらいながら、具体的な説明を受ける。
内容は、技術的なことや入院スケジュール、それと費用の話しがメインであり、一番気になっている去勢することによる行動面の変化などについてはこれといった説明がなかったため、こちらから質問した。

Q 手術は早い時期にした方が良い?
A 足を上げてマーキングを始める前であればそのまましない様になるが、既に足を上げているようであれば、その習慣はなくならない。

Q 手術後、犬の行動面などに変化はある?
A 元々の性格が変わる事はない。例えば、興奮し易い性格が手術によって穏やかになるようなことはない。

Q  雌犬に対してはどうなる?
A 去勢していない場合、発情中の雌犬のにおいを嗅ぎつけると狂った様に吠える。これは手術によって劇的に変化する。

以上。

生殖関連由来の病気リスクの軽減についての話は出なかった。獣医師からは特に手術を奨められるわけでもなく、フラットな印象を受けた。もし、このまま進めるのであれば希望の日程をお知らせ下さいとだけ言われ、その日は帰宅した。

9月に手術を受けることを前提に、それに合わせて私か妻が仕事を休んで送迎する必要があるため、お互いのスケジュール調整をする。

なんとか仕事の都合がつきそうな日程をおさえて、あとは病院に連絡を入れるだけ、というタイミングになり、意を決して妻に切り出した。

本当に去勢をする必要があるのか、手術はやめにしないか、と。

妻としてはすっかり手術を受けるつもりでいたため、この期に及んで予定を覆そうとする私に対して訝し気な態度を示すも、私がそう望むのであれば別に構わないと合意を得られた。

というのも、子犬は5か月を過ぎたあたりから既に足を上げてマーキングをするようになっていた。

普段から室内トイレの失敗は日常茶飯事で、毎度の後始末に対しては慣れている。それに今後も子犬を室内フリーにする予定はなく、粗相の後始末に関するエリアが広がるわけではないため、負担は今と変わらない。
マーキング対策として手術するには時期的には既に遅いということになるため、我が家の生活スタイルにとって特にメリットはない。

雌犬に対する発情については、今まで通り散歩中に他の犬と交流するつもりはないし、またドッグランのような不特定多数の犬が集まるような場所に連れていく予定もない。
当然のことながらに多頭飼いをする予定もないため、望まない妊娠はまず起こりえない環境といえる。

また、散歩中に発情中の雌犬のにおいを嗅いで狂ったように吠えたとしても、年に2回あるというのその時期だけをやり過ごしさえすれば問題ないのではないか(どの程度吠えるか知らないからこんなこと言えるのかもしれないが)。

私がSNSで追っているいくつかの「本気で噛む柴犬」アカウントにおける共通点として気になったのが、どの犬も生後1歳を迎える前に去勢手術をしているということ。また、これらのアカウントの過去ログを遡って見てみると、手術の時期を境に、愛犬に咬まれたという痛々しい傷跡の写真の投稿が目立つように感じられた。

去勢と攻撃性の因果関係があるかは不明だが、神経質で警戒心の強い個体が多いとされる柴犬にとっては少なからず精神面への影響があるのではないかという印象を抱いた。
ホルモンバランス云々以前に、犬側からすれば人間不信になってもおかしくないトラウマイベントになるのではないか?

子犬が受けたトラウマは、こちらが考えているよりもずっと根が深いと感じた出来事がある。

以前の記事に書いた、怯えている子犬を無理に触ろうとしてきた犬好き親子に対する警戒心は未だに解けておらず、散歩中に遭遇する度に全身で拒否し続けている。
随分前の出来事だったから記憶も薄れてきているかと思いきや、子犬自身は全く持って忘れていなかったのだ。

果たして、このような執念深い性格の我が家の子犬に対して、無理強いしてまで去勢手術を必要があるのだろうか?
手術をきっかけに、我々家族に対して不信感を抱いてしまうのではないだろうか?

といった具合に、健康体に傷を付けてホルモンのバランスを崩してしまうことに加え、ここまで築き上げてきた信頼関係が一気に崩壊していまうかもしれないデメリットと天秤にかけてまで、無理に手術を受ける必要性を感じられなくなってしまったのである。

これらの複合的な懸念から、冒頭の決断に至った。

そして、これは根拠のない想像だけど、私の場合、去勢した事を後悔することはあっても、去勢しなかったことに対する後悔は無いような気がしている。
これから先、未去勢が原因で病気になったとしても、それはそれで受け入れるべきだと思っている。


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