職人の技と地下水が守る秘伝のおいしさ。「うなぎ久保田」様
明治30年(1897年)に創業され、東京神田で地元の方や常連さんに長く愛され続けている老舗の久保田様。弊社の大潟村産あきたこまちを20年以上お使い頂いており、硬めに炊き上げたご飯と蒸すことでとろける食感になるうなぎとの相性は抜群。
店舗の向かいある川魚の卸問屋は創業当初から営んでいるそうで、四代目店主様にうなぎへのこだわりや家庭でおいしく食べられるワンポイント等をお聞きしました。
お店の歴史
-うなぎ屋を創業された背景や、創業当時のエピソードがあればお教えください。
創業者は私の曽祖父ですけれども、千葉の方から出てきてこちらで結婚しました。その妻である曾祖母の実家が、うなぎを扱うような仕事をしていたと聞いています。それがきっかけで、最初は卸しだけをやっていたみたいですが、直に「串売り」みたいな感じで料理の方も始めたようです。
最初は、生きたうなぎを色々なところに売るような問屋の方がメインでした。その頃から、一般の方にもうなぎの需要が結構あったんじゃないかと思います。
-明治30年頃、この辺りにはうなぎ屋は多かったんでしょうか?
その頃はどうでしょうかね。確かに神田、上野の辺りは、老舗のうなぎ屋さんが多いので、多分その辺りと、あと浅草、日本橋には結構あったんじゃないでしょうか。
私も本で読んだ話なんですが、江戸時代から続くようなお店って、その辺りに多かったらしいです。
神田青果市場があった頃は、その関係のお客さんが多かったですね。確かに、今よりはうなぎ屋もありました。私が知っている限りでも、辞めちゃったお店も結構あります。市場のすぐ向かいとか、魚を扱う食堂みたいなお店が結構あったなという記憶はあります。
-久保田様はこちらのご出身ですか?
そうです。今は新宿に住んでいるんですけど、もともとはここで生まれ育ちました。昌平(しょうへい)小学校の前身であった芳林(ほうりん)小学校が私の母校ですね。もう古い建物は壊しちゃって、今は立派な建物が立っていますね。
他にうなぎのエピソードとしては、初代が関東大震災の時にタレを持って逃げたという話を聞いたことがあります。
-やはりお店の建物は倒壊してしまったのでしょうね。
建物も木造だったので、おそらく完全に壊れちゃったと思います。新しく建てた木造の建物で生まれ育ちました。子供の頃は、まだ木造の建物だったのを覚えています。私が小学校一年の時に新しいビルを建てて、もともとあった建物と二つ繋げて今のビルになっています。このビルが建ってから、もう50年以上は経っているんですよ。
うなぎのこと
-ホームページにある白黒のお写真のように、うなぎ屋というとお店の外に丸いザルか桶を積み重ねてあるイメージがありますね。
あのザル中には生きたうなぎが入っているんですよ。
ザルにまつわるエピソードとして、近くに陶陶酒(とうとうしゅ:マムシ成分が含まれた薬用酒)の工場があったんですが、そこでうちと同じザルの中にマムシを入れていました。私の次男が幼稚園の帰りにとか、しょっちゅうそこを見ていたんです。そうしたら、ついにそこのおじさんに「僕、何かよく見るね。あのヘビ好きなの?良かったら一匹持って行くか?」って言われて(笑)。マムシをね。あのザルには、そういう懐かしい思い出がありますね。
1つの桶には大体5キロぐらいのうなぎを入れてあって、普通のうなぎは1キロ当たり5本ぐらいなので、大体25本入っています。
店舗の向かいにある、卸しの建物の下には地下水が通っていまして、それを組み上げて24時間循環させて水を落としています。カルキが入っている水道水だと、どうしてもうなぎが参っちゃうんですね。短時間だと全然平気なんですが、長時間流しているとやはり影響が出てきます。
水が澄んいでる状態が、間違いなくうなぎもおいしいですね。中でも特に青みがかったようなうなぎが、身が軟らかくて一番良しとされています。関東ではうなぎを蒸しますから、身が軟らかい分蒸し時間が短く済んで、それだけ旨みも落ちないので。
逆にちょっと黒っぽいうなぎは、身が詰まっているような感じで旨みが凝縮しているんで、関西だとこっちの方が好まれる場合が多いですね。
それぞれに良さがあるのでどっちがいいとは言えないんですけど。いずれにしても水が澄んでいる状態というのが、うなぎにとってはベストな環境。うなぎの品質が良い証拠なんです。うなぎの鮮度が落ちてくると、水を流していても濁ってくるんですよ。
これがうちに地下水が通っている証拠(災害時協力井戸所有)というか。
25年前の正月にね、うちの隣にあった酒屋が火事になっちゃって、うちも燃える寸前でした。もうそこまで火がきているのを見て、夜中だったからもう駄目だと思ったんですよ。でもね、奇跡的に火が移らなかったんですよね。
何故かっていうと、うなぎのために水をずっと循環させていたので、建物が湿気を帯びていたから火が移らなかった。隣は燃えて本当に丸焼けになってしまったんですけど、上の屋根みたいなのが少し焼けただけでこの建物自体には全く火が移らなかった。うなぎ様々というか。その年のうなぎ供養は、もう本当に丁寧にやりました。うなぎのおかげで燃えないで済んだっていう感じでしたね。
-うなぎは生命力が強いんですか?
うなぎは本当に生命力が強くて、水から上がった状態でも何時間も生きられるんですよ。普通の魚だとすぐ死んじゃうと思うんですが、そのぐらい生命力が強い。
ご存知だと思いますが、うなぎは川でも海でも生きられる特殊な生き物です。近年分かってきたのは、うなぎはグアム沖のマリアナ海溝の辺りで産卵して、それが日本の川に泳いでくる。私はちょっと本当にそうなのかなって思うことがあるんですけど、学者が言うにはそうらしいですね。
日本の川、淡水で育ったうなぎがあっちの海に泳いで行って産卵して、そこで孵った稚魚がこっちにまた戻ってくる。不思議な生態なんですけどね。
-あまり海のうなぎって聞きませんものね。
イメージはやはり川ですよね。ただ、うなぎはもともと海で生きられるんです。本で読んだ知識なんですが、うなぎの先祖って深海魚だったらしいですね。そこから進化して川でも生きられるようになっている。ウツボとかアナゴとかは、どちらかというと海のイメージでしょうけれど、あれはうなぎの仲間なんですよ、うなぎ目なので。
昔はうちによく岡山の天然うなぎが入ってきていたんですよ。岡山の「シャコうなぎ」。岡山の方、瀬戸内海でシャコを食べて育った天然うなぎです。甲殻類を食べて育ったうなぎって、すごくおいしいって聞いたことがありますけど、うなぎってなんでも食べちゃうんですよね。雑食性っていうか、本当に何でも食べちゃうので、特にエビとかシャコみたいなのは、彼らにとってはすごいご馳走なんじゃないですか。
-確かにエビを食べたうなぎと聞くと、おいしそうですね。
テレビ番組で取り上げられていた「シャコうなぎ」を見て、結構有名なんだなと私も再認識しました。他には四万十川の天然のうなぎとか、そういうのがよく入ってきていました。今はうなぎの資源が枯渇しているって、テレビでも話題じゃないですか。その資源を守るという意味で、うちではもう天然を止めてしまいました。
ただ、一部のお店では結構高額な値段で出してる場合がありますよね。いくら出してもいいから食べたいって言われるお客さんもいるみたいで。
最高のおいしさのために
-お店を続ける上で大事にしていることをお教えください。
本当に基本的なことなんですが、「熱いものをそのまま」というのが江戸では良しとされているので、うなぎを最高の状態でお出しするというのを心がけています。
タレも温めて、ご飯もなるべく炊きたての状態で出させて頂く。うなぎが焼き上がる直前にご飯を詰めて、うなぎを乗せてすぐ蓋を閉めるとか、そういうところにすごく気を使っています。
-テレビで見たことがありますが、うなぎを捌く時にポンって頭に釘みたいなものを打ちますよね?
あれは目打ちって言うんですけど、目に打つわけじゃないんですよ。頭の横のところにちょっと打ってから、二つに裂きますね。よくことわざで「串打ち3年、裂き8年」って言うんですけど、まさにその通りだと思いますね。私が経験した感覚だと、裂くのには最低10年はかかるんじゃないかなと思います。
皮の方に寄って打っちゃったり串の打ち方が悪いと、焼いている間に身が落ちちゃったりするんですよ。串打ち3年という理由は、そういった難しさがあるからだと思います。皮と肉の丁度、真ん中ぐらいに上手く刺さなきゃいけないので、やはり慣れるまで難しいところがありますね。
-慣れというか感覚なんでしょうか?
言葉ではなかなか説明できなくて、あればっかりは感覚ですよね。実際やって身に付けるしかない分野ですね。特に裂くのは口で言うのは簡単なんですけど、それでもできないんですよ。
最初の頃って絶対に思うようにいかなくて、私もそうでしたが何度も手を切ってしまいますね。その当時は先輩たちがやってるのを見ながら、本当に神様だと思いました。なんで、こんなことできるのかなって。そのぐらいやはり難しいです。
-タレはずっと継ぎ足されていたりする、秘伝のタレなのでしょうか?
秘伝ってよく言うんですけど、タレ自体は本当にシンプルなんですよ。みりんと醤油を半分ずつで、あとはザラメです。お店によっては蜂蜜を入れたりとか。
「お客さんがタレを作る」ってよく言いますが、何故かと言うと、タレにうなぎを何回もつけることによってうなぎの旨み成分、アミノ酸等が染み出るんですよ。それでタレが旨くなっていく。その味は一朝一夕には作るのが難しいものなので、秘伝のタレって言い方をするんでしょう。人に言えないような特別な何かが入っているとか、そういうことではないんですよ。
-長く続ければ続けるほどうなぎのエキス、旨みが出てくる。
そうですね。やはり忙しければ忙しいほど、タレがうまくなるっていうのはあるんじゃないでしょうか。よく秘伝のタレ、秘伝のタレって言うんですが、実はそこまで秘伝じゃないんですよね。だけど、何回もうなぎをつけるとか、そういうのは一般の家庭では出来ないので、お店と同じものを作るというのは不可能ですよね。だから秘伝と言う言葉で、置き換えてもいいのかなと思っています。
お米のこと
-食材選びで大事にしていることをお教えください。
お米で考えてみたんですが、まずはその素材の旨みですよね。あと食感が良いこととか、他の食材との相性ですね。お米にしても基本的にはやはり新鮮さは大事ですよね。中には例外的に、ちょっと置くことによって旨みが出るというものもありますが、まず新鮮なもの。それをあきたこまちさんのお米に置き換えてみると、全部合致している。食べた食感も自分の理想とする、うなぎにぴったり合うご飯の硬さ。
関東のうなぎは蒸すので、少し軟らかい感じの食感になりますが、それでご飯も軟らかいとべチャッとしてしまって、あまりおいしく感じられない。だからご飯はちょっと硬めに炊きます。他にはお米自体の旨みがね、残っていますね。それは本当に無洗米の素晴らしいところだと思います。
昔、近所のお米屋さんから、その時に一番良いって言われていたコシヒカリとかを仕入れて研いでいたんですね。研げば研ぐほどおいしくなるってよく言うんですけど、研いだ分だけ、どうしても旨みって水に流れて逃げちゃうじゃないですか。口当たりの食感はいいんですが、旨み自体は少し落ちちゃうという欠点がある。無洗米はその欠点を見事に克服しちゃっているというか。
-研ぐお米ですと、どうしても研ぐ人とか研ぐ時間とかによってばらつきが出てしまいますね。
お米の粒が少しかけてしまったりとか、そういうことはどうしても避けられないんで。無洗米だとその点、一粒一粒がもうそのまま生きてますもんね。それはもう素晴らしいなあと常々思います。
-お米へのこだわりや弊社のお米を使って頂いている理由、きっかけをお教えください。
山形の親友の家に遊びに行った時に食べたお米が、ものすごくおいしくて「あ、これはうなぎにぴったりだな」と思ったんです。それで「これ、山形のお米なの?」って聞いたら、「いや、これあきたこまち」って言うので、「ああ、あきたこまちすごいな」と思いました。山形産のお米をその当時は使ってたんですけど、ちょうどそれを止めた頃にあきたこまちさんのチラシが回ってきたんですよね。秋田で作ったお米をそのまま産地直送っていうのを聞いて「あ、これだな」と思いました。
涌井(弊社会長)さんは新潟出身の方なんですよね?新潟の出身で、あえて秋田であきたこまちを作るというのにすごく共感したんです。新潟のお米を知っている人が、秋田であきたこまちを作るというのは、これはもう一番じゃないかなって思いました。やはりあきたこまちはすごいなぁっていうイメージが、その時もう確立していたというか。
-お米の炊き方についてポイントがあればお教えください
あきたこまちさんのチラシから影響を受けたのもありますが、水温を下げるために氷を入れて炊いています。一日に出る最低限の量、必ず出る量のお米を朝のうちに水に浸けて、炊飯場である地下に置いておきます。ちょっと浸け置きしてから炊く場合と、使うタイミングに応じて炊く場合があります。
一升とか二升とかを炊きますが、状況によりすぐ炊かなきゃいけない場合には、一度水に浸したあとザルに上げてお米を乾かします。そうするとお米の中に水分が染み込むんですよ。その状態にしたのを置いておいて、必要に応じて炊飯するということをやっています。それには必ず氷を入れていますね。
一日の始めは二升釜で二升炊いて、あとから追加しますが、今日は一升炊いてあります。余裕がある場合は水に浸漬して、直前にかける場合は一度水につけて乾かしたものというように使いわけています。いきなり炊いてしまうと、硬さがちょっと違っちゃうかなと思うので、一応そういう工程をやっています。そうすると、直前に炊いても結構自分の理想通りに炊ける気がしますね。
-無洗米の炊飯の方法としては本当に完璧です。
氷を入れるというのも、最初はあきたこまちさんのチラシを見てヒントを得たんですが、その後テレビでも氷を入れて炊飯するとおいしくなるっていうのをやっていたんですよね。じゃあ、やはりこれは確実な方法だなって(笑)。ありがたいことを教えて頂いたなと思いました。
-特に夏場は水温が上がってしまうので、そのまま炊くと、炊き上がるまでの時間が短くなっちゃいます。その結果、硬く炊けちゃうので水温を下げる必要がありますね。
お米はやはり、少し硬めの方が良いんでしょうか。
基本的に関東ではちょっと硬めが好きな方が多いというのと、タレをかけたりするためですね。うなぎ自体が軟らかいのでご飯まで軟らかくしちゃうと、どうしてもベチョベチョした感じになっちゃいます。ちょっと硬めの方が、上のうなぎと相性が良いと思うんですよね。
逆に関西ではうなぎを蒸さないので、ちょっとしっかりした食感のうなぎになります。関西の方は軟らかいご飯が好きなので、うなぎには軟らかいご飯を合わせると聞いたことありますね。関西と関東では逆なんですよね。
炊飯の水加減は決まっていて、計量カップで最適な量を量っています。一升炊きの時は、二升炊きと同じような感覚にすると水分が少なくなってしまうようで、ちょっと増やして炊いてます。その辺の水加減は、炊く量や状況に応じて変えています。
お客さんからも絶賛されることが多くて、「今まで食べたお米の中で一番おいしい」って言われることが結構あるんですよ。よく「ご飯が冷めてもおいしい」って言われます。
私もお土産にして家で食べることもあるんですけれど、冷めても確かにおいしいですよ。自分のベストの硬さになっていて、べちょべちょってしていないです。
おうちでもおいしく
-スーパー等で買ってきたうなぎを、家庭で食べる際においしくするワンポイントがあればお教えください。
うちの流儀だと、うなぎにタレをちょっとかけてから電子レンジで温めます。うなぎと一緒にタレも温まって、中に染み込む感じになりますね。実際自分でやってみて、おいしい食べ方かなと思っています。私はラップをしないで、そのままの状態で温めちゃうことが多いですね。
日本酒会…?
-うなぎ料理と一緒に日本酒を楽しむ「日本酒会」というのを開催されていますよね。
うちは日本酒にも結構力を入れていて、弟である社長が月一回ぐらいで開催していました。コロナの関係でもう何年かできていないので、今はちょっと停滞していますが、日本酒会によく来てくださっていたお客様も個人的にお店にいらっしゃいます。うなぎをつまみに日本酒を堪能して頂いていますね。
-一生に一度は参加してみたいですね、日本酒会(笑)。
やはりうなぎとの相性は良いと思います。うちが卸しているうなぎ屋さんで日本酒会をやっていたんですね。そこから「やってみたらどうですか?」と、確か弟が言われたのが日本酒会を始めたきっかけだったような記憶があります。
一時期よりはお客様も増えましたが、今も景気が良いとは決して言い難いですが、その頃は景気がちょっと落ち込んでいてお客様が割と少なかったので、なにかこう良くするきっかけを作ろうというような意味合いで始めました。
=インタビュアー実食!=
お腹が究極に空いてきたところで、うな重定食を注文。名物の肝焼きに肝を使ってしまうので、肝吸いではないとのことですが、お吸い物がすごくおいしい。ふっくらしたうなぎはとろける食感で、ちょっと硬めのご飯とタレとの相性も抜群。硬めの食感だけどもちもちした食感は、あきたこまちの特徴が活きています。こだわりの炊き方のなせる技か、さすが!すごくおいしい。箸休めの漬物もすごくいい塩加減で、ご飯が進みます。
これぞ老舗のうなぎ!おいしくいただきました。
店舗情報
うなぎ久保田
インタビューを通じ、大潟村あきたこまち生産者協会のお米やパスタを選んだ理由、おすすめの調理法などを紹介します。
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