【イベントレポート】PLAZMA D2C|オネストフード:選ばれるD2Cブランドになるために欠かせない3つの条件とは
「D2Cをビジネスモデルとして理解する!」をテーマとしたオンラインイベント『PLAZMA D2C produced by 株式会社顧客時間』が、2020年12月9日-10日の2日間、開催されました。D2Cブランドや、事業のD2C化を実践する大手メーカー担当者をゲストに招き、各社のD2Cビジネスの真髄に迫る内容となりました。
その中から今回は、「全ての動物とその家族の幸せな生活のために」の企業理念の元、日本ではまだブルーオーシャンとも言えるD2Cペットフードビジネスを手掛ける「オネストフード株式会社」のセッションをご紹介します。
〈ゲストプロフィール〉
佐藤 淳 氏|オネストフード株式会社 代表取締役
2006-7年 学生時代、雑貨&アパレルのEC企業にてインターン。
2009-13年 大学卒業後はECコンサルティング会社を設立し、食品、雑貨、サプリメント等のEC事業の立ち上げを支援。
2013年 事業を売却し、食品ECのオイシックスに入社
2013-14年 オンラインデパチカ事業「Oiチカ」の立ち上げ責任者。
2015-16年 EC事業本部の販売推進室の責任者。(LTV側の責任者)
2016-18年 CVC「フードテックファンド」の立ち上げ責任者。食に関するベンチャー企業への投資やアライアンスを実行。
2018年7月 オイシックスを退職。ペットフード事業を起業。
〈モデレータープロフィール〉
奥谷 孝司 |株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 Chief Omni-Channel Officer
1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に2年出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「World MUJI企画」を運営。2003年良品計画初となるインハウスデザイナーを有する企画デザイン室の立ち上げメンバーとなる。 05年衣服雑貨部の衣料雑貨のカテゴリーマネージャー。現在定番商品の「足なり直角靴下」を開発、ヒット商品に。10年WEB事業部長。「MUJI passport」のプロデュースで14年日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の第2回WebグランプリのWeb人部門でWeb人大賞を受賞。 15年10月よりオイシックス株式会社入社。統合マーケティング室 室長 Chief Omni-Channel Officerに就任。16年10月より執行役員。
2010年 早稲田大学大学院商学研究科夜間主MBAマーケティング・マネジメントコース(守口剛ゼミ)修了
2017年4月 一橋大学大学院商学研究科博士後期課程入学
2017年10月 株式会社Engagement Commerce Lab.設立
2018年9月 株式会社大広との共同出資会社株式会社顧客時間を設立、共同CEO取締役に就任
説得力は想いを込めたモノづくりから生まれる
奥谷:ファッションやコスメのD2Cブランドが多い中で、佐藤さんが手がけられているのはペットフード。珍しいですよね。
佐藤氏:創業のきっかけは、野良猫を保護したことです。保護した4日後に子猫が3匹生まれ、当時Oisixに居たこともあり猫ちゃんの食事についてこだわりを持って調べるようになりました。その中で日本がペットフード後進国と言われていることを知ったのです。日本は良い商品を作る力はあるのにマーケティング面が弱く、価格勝負の商品づくりになっている状況でした。
国内で消費するものは国内生産した方が輸入のコストもかからず、鮮度も良い。それであれば食マーケティングの経験を生かして日本ブランドのペットフードをつくりたいと創業しました。販売開始から順調に成長し、この一年半で8倍の月商で推移しています。
今D2Cはトレンドになっていますが、本物のD2Cブランドの条件はしっかりと世の中に対して価値を提供できていること。そのためには、お客様にダイレクトに想いが伝わっている必要があります。
①共感を集めるコンセプトと哲学
②想いをもとに作り込またプロダクト
③顧客データと直販の利を活用して、これまでにない価値・革新を提供する
これらが揃っているのがお客様から選ばれるD2Cであり、これまでの小売や直販の商品・サービスでは提供しえなかった体験を生むと考えます。この3つの要素に沿って、弊社の特徴を説明します。
①共感を集めるコンセプトと哲学
佐藤氏:既存の商品は、いかにわかりやすく、いかに売りやすいかを重視してきました。売りやすいのはワンちゃん猫ちゃんが「食べてくれる」商品。人工的な濃い味付けにしたり、飼い主への見た目を考慮して着色料で色合いを調整するなどの商品づくりが中心になってしまいます。一方で、体に気を使い自然の食材を使うと、人間にとっての和食のような味わいになるので食いつきが落ちてしまいます。
そのため売りやすいかと聞かれると、実は非常に売りづらいです。健康への貢献にこだわって商品を作っていることを伝え、理解していただかないと、「(ワンちゃん猫ちゃんが)食べてくれないので辞めます」となってしまいますし、実際お試し版から定期購入に移行してもらう際の移行率がなかなか伸びない悩みがありました。コンセプトに共感していただけるまでお伝えし、購入につなげていく努力をしています。
奥谷:売りやすいものではなく健康に良いものとなると、商品開発にも時間がかかりそうですよね。
②想いをもとに作り込まれたプロダクト
佐藤氏:はい。まさに2点目のモノづくりへのこだわりに繋がりますが、商品開発には一年弱かかりました。工場も20社ほどに断られ続け、ようやく1社だけ「難しいと思うけどいいよ」と、話を聞いてくれるところが見つかりました。そのメーカーさんからも「諦めた方がいいのでは?」と一年間何度も言われながら進めてきた感じです。
奥谷:D2Cブランドづくりって、お客様とつながるとかネットで売るのも大事ですが、モノづくりそのものに対する協力者が大事ですよね。生産者さんが賛同してくれないと実現しない。
佐藤氏:そこは頑張らないといけなくて、モノづくりへの徹底したこだわりは商品コンセプトに説得力を持たせるのに不可欠です。これだけ色々なモノが溢れている時代、お客様はスペックだけでは選べなくなっています。細かいところまではわからなかったとしても、モノづくりへのこだわりとコンセプトを理解していただけるように伝えていきたいですね。
奥谷:D2Cは伝えていくことが大事だと思います。伝えることを怠ると単なる通販になってしまいますよね。
データ活用でペットフードの2大ストレスを解決 - ③顧客データと直販の利を活用して、これまでにない価値・革新を提供する
佐藤氏:ペットフードの場合、そもそも直販であることで商品としての革新性があります。これまでのペットフードは流通期間が長く、賞味期限が2年程度に設定されていたため保存料が必要でした。しかし弊社は直販なので、賞味期限は9ヶ月。製造から1−2ヶ月でお届けできるので、それで十分です。
さらにデータ活用において最も今注力しているのが、パーツ組みあわせ型のパーソナライズ提案。ワンちゃん猫ちゃん一頭一頭に合わせて、フードを提供していくサービスです。ペットフードには2大ストレスがあり、ひとつは年齢や体調によって最適な栄養素が変わるため、どのタイミングでどの商品を選んでいけばよいのかがわからない問題。もうひとつが、いざ切り替えようとしたときに、ワンちゃん猫ちゃんが新しい味を嫌がる傾向があるので、飼い主が変えたくても食いつきの問題で変えづらい問題です。
それに対して弊社が計画しているのが、フードを3つのパーツに分ける方法です。ベースになるフード、味わいの部分でのトッピング、健康をケアするためのサプリ。この3つのパーツの掛け合わせでご提案をしていく予定です。
年齢・性別・避妊去勢有無などの基本データをお客様から取得し、3つのパーツからそれぞれのワンちゃん猫ちゃんに合わせた選択をしていきます。これによって1,000通り以上のパターン提案が可能になります。
市販の商品だと、「シニア向け」のような大きな括り方しかできないので、一頭一頭に合わせたピンポイントの対応は難しいですが、かなり細かにパーソナライズされた提案ができるのが組み合わせ型の良いところです。まさにD2Cならではのサービスです。
奥谷:選ぶのは大変そうですが、できるようになれば非常に画期的ですね。
佐藤氏:蓄積したデータを元に弊社からご提案をしていくので、月齢などの情報を入れておいていただければお客様は選ぶ必要がありません。年齢が変われば「そろそろこれに切り替えませんか?」といったレコメンドもしていきます。
2大ストレスであった、どういうフードを選んだらよいかわからない点も解決できますし、切り替える際も、例えばベースのフードがシニア向けに変わってもトッピングを変えずに近しい味わいのまま移行できるなど、食いつき問題にも対応可能です。
さらに今後は、ペット系テックツールとの連携も考えています。ペットの業界でもIoTが進んでおり、ペットの健康データがオンライン上でどんどん溜まってきています。テックツールと弊社のサービスを組み合わせて、より最適なフード提案をしていくことも見据えています。
カスタマーサポートの内製化でお客様とつながる
佐藤氏:お客様との接点であるカスタマーサポートは非常に重要です。最近は外注する企業も多いですが、弊社は徹底して内製化にこだわっています。ペットフードに関する質問は専門的な内容が多いので、動物看護師やペット栄養管理士が在籍するなど、専門性を持ったスタッフを揃えている点が強みになります。また、直接質問を受ける機会を活用して、ヒアリングもしています。食べなかったときにどういった与え方をしたか、どのような噛み方だったかなどをお聞きし、ダイレクトに商品やサービスに反映しています。
奥谷:真摯にお客さんに向き合っているのは素敵ですね。商品開発についてもお客様の声は重要かと思いますがどうでしょう?
佐藤氏:商品開発にご協力いただくための会員組織を作りたいと思っています。お客様に実際に使ってみていただいて、開発や発信にご協力いただけるような仕組みが作りたいですね。今も非常に熱量が高いお客様が多いので実現しやすいと感じています。
▲レガリエペットフードご利用の方からの投稿写真:オネストフードプレスリリースより
奥谷:ワンちゃんは外での飼い主どうしの交流などリアルなタッチポイントも重要になりそうですが、オンラインの他、病院などへの卸売も考えているのでしょうか?
佐藤氏:はい。ワンちゃん猫ちゃんが集まる場所はある程度限られていて、動物病院はひとつ大きなタッチポイントになると考えています。100%ワンちゃん猫ちゃんを飼っている人しか集まらないですし、何より動物病院で取り扱っている商品は信頼性が高まります。今すでに一部の病院で置いていただく取り組みを始めているのですが、導入の決定に寄与したのが獣医師からのお墨付きでした。獣医師からの評価を測ってくれる第三者機関があり、そこで得た評価があることで病院も受け入れてくれやすくなっています。また、導入後お客様が食べさせてよかったとフィードバックをしてくれることで、病院側も紹介してよかったと思ってくれる良いサイクルが生まれています。
奥谷:日本はまだまだペットに対するリスペクトが低い状況がありますが、最後に、ペットビジネスを通して御社が実現したいことをお聞かせください。
佐藤氏:我々の企業理念は「全ての動物とその家族の幸せの生活のために。」です。ここには、人に飼われていないワンちゃん猫ちゃんや、ワンちゃん猫ちゃん以外の動物も当てはまります。ペットフードだけでなく、ペットの福祉についても日本は後進国で、殺処分の問題や多頭飼育の問題などが山積みです。社会の一員として、そういった問題の解決にも取り組んでいきたいと思っています。
奥谷:確かにペット領域では、まだまだ“売らんかな”ビジネスが多い印象があります。動物の権利は守っていくべきですし、オネストフードがMade in JAPANのブランドとして世界に出ていくときに、そういった事業は大切ですよね。事業拡大とともに、社会的なミッションにも取り組んでいっていただきたいです。また、こういった切り口でもD2Cがやれるんだと視聴者の皆さんのヒントになってくれたらと思います。ちなみに、今、佐藤さんのようなEC領域のキャリアをお持ちの方などの人材を募集中とか……?
佐藤氏:はい!EC領域やWEB広告の経験者、そしてIPOに向けてのCFOなどを継続的に募集しています。今のフェーズは絶対に面白いと思いますので、ぜひお待ちしています。