いまこそ神道は「多様性」と「世界の宗教文化」に向き合う
過疎化による地域コミュニティの解体、担い手の不足など、神社を取り巻く環境は大きく変化している。その中で「社会課題や社会的テーマに神道がどう関われるかを考え、主体的に動ける人の育成を目指す」と話したのは、神道文化学部の黒﨑浩行・新学部長(前編参照)。同氏は、本学部が重きを置く社会的テーマとして「多様性」と「世界の宗教文化理解」を挙げる。なぜこれらを重視するのか。その詳細を聞いた。
神道が「排他性」につながりかねないという問題意識
近年の重要な社会的テーマに「多様性の尊重」があります。本学では令和4年度より「中期5ヵ年計画」がスタートしましたが、神道文化学部ではこの5ヵ年において「多様性と神道」に関する研究教育を推進しようと考えています。神道精神は多様性の尊重に通じる一方で、それに逆行する面をはらんでいるためです。
たとえば祭りの中には、伝統的に参加者の条件が限定されているケースがあります。神輿は長男しかかつげない、地域住民しか参加できないといったことは珍しくありません。
また、グローバル化の中で神道が「日本人の優越性」の強調に使われるケースも見られます。日本人の根本に神道精神があるのは間違いありませんが、それにより優越性を強調するのは、排他性につながりかねません。
これらは一例ですが、複雑な現代社会の多様性に対して神道がどのような態度を取るかは重要な課題になっています。この問題に対し、受身ではなく能動的に、主体性を保持した態度を取ることが大切です。本学の建学の精神でもある「寛容性と謙虚さ」を現代でも明らかにするため、まずは多様性と神道に関する教育・研究の基盤を構築し、教員各自がそれぞれの担当分野で行動していきます。また、学術団体や神社界の研究機関など、学外との連携協力も強くしていきます。
国内外の宗教に関するリテラシーを高める学部に
もう1つ力を入れたいのは、世界の宗教文化に関する教育・研究です。近年はグローバル化により多様な宗教が日本に入っています。相手の宗教の知識を持つべきですし、互いの宗教に対する尊重の念が必要です。また、いまも宗教による国際対立や被害は後を絶ちません。そこでこの社会的テーマにつながる学問を究めていきます。
もともと本学部は、神職養成や日本の宗教文化のみならず、世界の宗教文化も研究・教育してきました。例として、学生は3年次になると個々の関心に合わせて「神道文化コース」と「宗教文化コース」のどちらかを選択します。神道文化コースは神職に向けた教養を身につけるコースですが、宗教文化コースは内外の宗教文化を比較研究するもの。神道に限らずさまざまな宗教を学びます。
この分野に関する教員も充実しており、神道文化学部が立ち上がった平成14年、本学の研究機関である「日本文化研究所」(現・研究開発推進機構)から、世界の宗教文化を研究する教員が複数名移籍。体制を強固にしました。
具体的な目標としては、日本や世界の宗教文化を学んだ人に与えられる「宗教文化士」を本学部から年間50名程度輩出したいと考えています。この資格は宗教文化教育推進センターが認定するもので、現代の多文化社会で活躍できる人材に与えられる資格と認知されています。こちらは中期5ヵ年計画に紐づく目標値の1つに設定し、授業では研究開発推進機構のデジタル・ミュージアムなど、本学の豊富なコンテンツを有効活用していきます。
このようにして、日本や世界の宗教文化を専門的に研究し、教育への反映を重ねながら、社会で活躍する人を輩出していきます。ポップカルチャーなどの現代的な入口で宗教や神道に興味を持つ学生も、大学を卒業する「出口」では、確かな宗教リテラシーを身につけた人へと成長させたいのです。