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私が学ぶ「私的」な理由

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学ばなければではなく、学びたい、知りたいから学ぶ。自身の体験や問題意識に基づいた理由があると、学びはもっと豊かになる。学び直す道を選んださまざまな職業人に、学びのスタイルと「私的…
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「それでも勉強したい」と思う瞬間が人生にはある|デザイン研究者・佐賀一郎|私が学ぶ「私的」な理由

差し出された名刺の、内容以上にフォントに目が留まる。向こうもその視線に気づいたのか、さっそく始まる立ったままの講義。 「これは弘道軒清朝といって、明治期に元薩摩藩士の神崎正誼が精魂をかたむけて開発した楷書活字なんです。販売開始したのは1874年だから、デジタルフォントとして現存する最古の和文活字書体で……」 情熱迸る語り手は、多摩美術大学グラフィックデザイン学科の准教授・佐賀一郎さん。近代以降のデザイン史が専門の研究者であり、教育者です。学位論文「明治初期の近代的新聞にお

フツーの大人がフツーに学び直せる環境を|雅楽芸人・カニササレアヤコ|私が学ぶ「私的な」理由

平安装束をまとったビジュアルと、竹で作られた管楽器・笙を用いたネタで知られるお笑い芸人・カニササレアヤコさん。R-1グランプリ2018の決勝に進出するなど芸人として活躍する一方で、2022年4月には東京藝術大学の音楽学部邦楽科に入学し、自身のための学び直しを始めています。 会社で働くロボットエンジニアとしての側面も持つカニササレさん。芸人・会社員・そして学生という3つの立場を掛け持つ暮らしは、決して容易なものではないはず。大学で学ぶ喜びを感じながらも、その環境は身を削るもの

報道と幸せな職場は両立できるのか|元新聞記者・辻 和洋|私が学ぶ「私的」な理由

國學院大學経済学部の助教として組織の人材育成、マネジメントを研究する辻和洋さん。全学部の教員を対象に学生が選ぶ「ベストティーチング賞」を2度受賞するなど、指導に定評があり、NPO法人「Tansa」でジャーナリストの育成事業にも携っています。 もともとは新聞記者という異色の経歴を持ち、全国を揺るがす大きなスクープの実績も。そのまま志高く報道の道を歩むはずだった辻さんが5年で記者を辞め、再び学びの道に足を踏み入れたのは、報道の現場でぶつかったある課題がきっかけでした。 記者が

考えるより先に足が動いていた|元英語講師・長田恵理|私が学ぶ「私的」な理由

國學院大學人間開発学部の准教授・長田恵理さんは、もともと私設塾や小学校で子供たちに直接、英語を教えていました。それが現在では「英語をいかに教えるか」の理論を追究し、小学校の英語指導者を育成する立場へと身を転じています。 日本語、英語、イタリア語を操る自称「語学マニア」。趣味のK-POP好きが高じて、現在は韓国語を学習中だそう。常に言語に寄り添い、学び続けてきたように見えるそのキャリアはしかし、一直線ではありません。そこに彼女の人生観、学習観が見え隠れします。 夢なんてなく

「忘れ物」を回収し、人生を前に進める|漫画家・うえはらけいた|私が学ぶ「私的」な理由

とてつもない表現に触れると、感動を通り越して体中が「ゾワワ」と震える瞬間がある。漫画『ゾワワの神様』は、そんな「ゾワワ」な表現を作りたくて広告会社に入社した新人コピーライターの物語。さまざまな失敗や先輩クリエイターとのやりとりを経て、主人公は少しずつ成長していく——。 2021年にWeb連載を開始し、このほど単行本化された同作は、広告制作現場のリアルな描写も話題を呼びました。それもそのはず、作者のうえはらけいたさんは新卒で大手広告代理店の博報堂に入社。コピーライターとして活

学問こそが一番のエンタメである|バラエティプロデューサー・角田陽一郎|私が学ぶ「私的な」理由

学問こそが一番のエンタメである——。そう言い切るのは、フリーランスの「バラエティプロデューサー」として多方面で活躍中の角田陽一郎さんです。   1994年に新卒でTBSに入社。バラエティ番組のプロデューサーとして『金スマ』『からくりTV』などの人気番組を手がけてきました。2016年の退社・独立後は、東京大学大学院に入学し、「文化資源学」という新しい学問を学んでいます。また、自身のnoteや著書などを通じた、学び直しについての積極的な発信も目立ちます。   多忙を極める売れっ子

勉強するために勉強してる|作業療法士・橋本和樹|私が学ぶ「私的な」理由

2000年代のインディーズ音楽シーンを彩った京都発オルタナティブロックバンド「dOPPO」のボーカル・橋本和樹さん。バンドは2017年に惜しまれつつ解散しましたが、その後もソロアーティストとしてマイペースに活動を続けています。 橋本さんにはもう一つ、医療従事者としての顔があります。普段は作業療法士として患者のリハビリを行っており、その技術研鑽などを目的に、2022年9月に渡仏。現在はパリ第8大学の大学院で、哲学と作業療法の勉強をしているといいます。 自身の歩みを「学び直し

学んだら飽き、また学ぶ|ノンフィクション作家・高野秀行|私が学ぶ「私的な」理由

「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」。ノンフィクション作家・高野秀行さんは、世界中の辺境で旅や取材を続けています。 取材先では、現地の人が使う言葉でコミュニケーションを取るという高野さん。これまで学んだ言語の数はなんと25以上で、著書『語学の天才まで1億光年』(集英社インターナショナル刊)では自身の語学体験とユーモア溢れたエピソードがつづられています。 高野さんは、フランス語や中国語といったメジャーな言語から、話せる人がほとんどいない、

研究と実践の往還こそ使命であり喜び|町田樹|私が学ぶ私的な理由

2014年ソチ・オリンピックに出場した日本を代表するフィギュアスケーターの一人、町田樹さん。同年12月に競技者を引退し、セカンドキャリアとして選んだのは研究者の道でした。2020年10月に國學院大學人間開発学部に着任し、2024年4月からは准教授として活動しています。 フィギュアスケートや新体操といった芸術的側面を持つスポーツを「アーティスティックスポーツ」と名付け、経済学、法学、社会学、芸術学などさまざまな学問領域を横断しながら探究しています。また、解説者やテレビ番組の企