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「モノ作りをしてる実感がもてる」。父親から男兄弟より頼りになると言われる、構造整備部のお仕事とは

MRO Japan株式会社 構造整備部 構造整備課
タマグスク英理さん

はじめて飛行機に乗ったとき「本当に安全に飛ぶの…?」と不安に思った方は少なくないのでは?
ですが実際は、毎日当たり前のようにたくさんの人を乗せ、時間通りに飛び、しっかり目的地に送り届けてくれる安心安全な乗り物です。

なぜこんなにも大きい機体が、空を飛ぶという大それたことを問題なく毎日こなせるのかというと、裏でしっかりと整備してくれている専門家がいるからなんです。

今回は、飛行機の安全を裏で支えるMRO Japan株式会社の「構造整備部 構造整備課」で働くタマグスク英理(えり)さんを取材。父親から「男兄弟よりも頼りになる」と言われる彼女の構造整備部でのお仕事とは、一体どんなものでしょうか。じっくり伺いました。

■モノ作りをしながら、世界に目を向けられる仕事

--- まず構造整備部について教えてください。どんなお仕事をする部署なんですか?

一言でいうと、飛行機の外科医のような仕事です。飛行機にも車検のように定期的な点検があって、ドックに入ってきた機体をまず機体整備部の方々が点検を行います。そこで見つかった部品の傷や不具合を修復するのが、私たち構造整備部の仕事です。
飛行機全体の構造を点検し、不具合がある場所やパーツを交換したり修理する部署ですね。

機体や部品に傷がついている部分は取り外して、新しい部品に作りかえたり、設計したりします。新しいパーツを取り寄せ、それに穴を開けたり、損傷が激しい場合は、大きい板一枚からパーツを作ることもあるんですよ。

--- パーツをイチから。どのように作るのでしょうか。

ホワイトボード2枚分くらいの大きな板が送られてくるので、それを必要サイズに切り出すところからはじめます。

--- 本当にゼロからスタートなんですね。プラモデルみたい。
車検だと1週間くらい車を預けると思うんですが、飛行機はどれくらいかかるんでしょうか?

たとえば、機体がDOCK IN(お客様から受領)されてからC整備と言われている定例整備だと大体2~3週間くらいになりますね。機体が到着してから、機体整備部の方が点検して、構造整備部に5日後に担当が回ってきます。そこからずっと作業を行い、DOCK OUT(お客様に引渡し)をする5日前くらいまでは私たちが担当していますね。

---かなり特殊なお仕事だと思いますが、このお仕事を選ばれたきっかけをお聞きしたいです。

高校の時にやりたいことが見つからずに悩んでいた時期があったんです。自分を見つめ直す時間が欲しいと思い、高校卒業後に1年半くらい関東でボランティア活動をはじめました。
困っている人の話を聞いて、心のケアをしたり、何かできることがあればお手伝いをしたりするという活動でしたが、色んな悩みをもった方と話すうちに自分のやりたいことが徐々に見えてきて。ぼんやりとですが「私は世界に目を向けたいんだな」と気付いたんです。

--- 世界ですか。

私の父はブラジル人なんですが、幼い頃から時々ブラジルの親戚の家に遊びに行っていたんです。言葉は全然喋れないんですけどね。だから漠然と、せっかく海外に親戚がいるのに勿体ないと思っていました。それが「世界」という発想に繋がったのかなって。

--- なるほど。世界というテーマから航空業界に繋がったんですか?

はい。ある日、母が私に向いていそうな会社のパンフレットをいくつか集めてきてくれたんです。パンフレットを眺めながら「自分に合うものはなんだろう?」と考えていると、航空業界のチラシが目に留まりました。
この業界なら、自分探しで見つかった「世界」というキーワードと合致するかもと思い、航空関係の専門学校へ進むことにしました。

--- この時点ではまだ、整備というところは決めていなかったんですね。

そうですね。ただ何となくモノ作りがしたいなとは思っていました。父は料理や自転車の修理が得意な人で、その姿を見てかっこいいなって思っていたんです。自分もそういうことができたらいいなって。

--- タマグスクさんもモノ作りが好きだったんですか?

そうですね。時々ケーキを作ったり、部活をやっていた時は友だちにフェルトでお守りを作ったりしてました。ガンダムのプラモデルも一度だけ作ったことがあります(笑)。

■3か月の訓練期間で現場へ、4年目でやっと一人前に!

--- 専門学校に通った後、入社までの経緯を教えてください。

最初は大手の航空会社が良いかなと思ったんですが、大手だと沖縄を離れる必要があり、離れるのはさみしかったので、沖縄でできる航空関係の仕事はないかなと探していました。そこで、学校の先生に紹介されたのが弊社でした。

--- 入社したばかりの頃は、どんな仕事からスタートするんですか?

入社したらまず、3か月の訓練期間があるんです。期間中は、社内にどんな課があって、それぞれどんな仕事をしているか、どんな流れがありどんな知識が必要なのかを基礎から学びます。カリキュラムが組まれているんですが、座学が主で、知識が増えてきたら実践という感じでした。
構造以外にも、電装、塗装などの色々な部署があるので、学んだ上で自分が入りたい部署を伝えて、配属が決まるという流れです。

--- なるほど。では構造整備課はご自身で希望されたんですか?

そうですね。自分にどこが合っているのか考えた結果、ここがいいなと思いました。

--- 現場デビューはどんな風にはじまったんですか?

最初は必ず先輩と一緒に作業していました。どういう作業をしているのかを横で学びながら、補助的な作業をするイメージです。

--- だいたいどれくらいで一人立ちできるものですか?

1年ぐらいはがっつり先輩の横で学びましたね。そこから徐々にひとりでもできる作業を増やしていって、4年目で「一人立ち」するために社内資格を取得しました。この年から現場での責任の重さがかなり変わってきました。
今年で5年目なので、ちょうど一人立ちして経験を積んでいる最中です。

■仲間と共に手に馴染む道具で!好きな作業は「ドリルで穴開け」

--- 1日のお仕事の流れを簡単に伺っていいですか?

朝は8時にスタートして、朝礼やラジオ体操をして体をほぐします。その後、その日担当するゾーンのチームで集まってミーティング。8時半から作業開始して、間に休憩を挟みながらお昼まで作業をします。お昼休憩は12~13時。休憩後はまた作業をして、終わりは17時です。残業はあったりなかったりと、その日の作業量によって変わります。

--- ずっと作業している感じなんですね。この仕事のどんなところが好きですか?

壊れた部品をゼロから作ることも多いので、モノ作りをしてる実感がもてるところですね。やりたかった仕事ができてる感覚というか。あとは一緒に働くメンバーと何気ない会話をしながら作業をするのが楽しいです。
男性が多い部署ではありますが、男女関係なく仲がいいですし、 使うツール(道具)が大きくて持てなかったりするときに補助してくれたり、色々と配慮してくれるので、働きやすいですね。

(専用の機械を使って、目に見えない傷をチェックする)

--- 逆にこの仕事の苦手なところはありますか?

少しずつ後輩に教えていく立場になってきて、理解してもらう伝え方を考えるのが難しいなと感じる瞬間があります。私自身もまだまだ覚えなければいけない部品がたくさんあるので、学ぶ大変さも続いていますね。

--- そうなんですね。部品はだいたいどれくらいあるんですか?100くらいありますか?

何万とかですね。機体にもよりますが…

--- 万!全部覚えている人っているんですか?

丸暗記している方はいないと思いますが、パーツを見て、それがどこのパーツかをほぼ覚えている方はいらっしゃいますね。

--- ほぼ覚えている人がいるんですね。すごい。
好きな部品や作業はありますか?

好きな部品は特にないんですけど、ドリルで穴を開ける作業は好きです。
ドリルで穴を開けると切りくずが出るんですが、切りくずが長くてらせん状になっているのが上手な穴あけの証拠なんですよ。いい状態の切りくずが出たときは、かなり燃えます。

--- かつらむきみたいですね。たしかに綺麗に出せたら気持ちよさそう。

そうなんです。あと、作業に使う道具は入社時に会社から支給されるんですけど、道具はそれぞれ自分たちで研ぐんですよ。専用の研ぎ器があるんですが、人によって微妙に研ぎ方が違うんです。自分の道具が少しずつ自分色に染まっていく感覚があるので、それを楽しんでいる同期もいますよ。

(研ぐための機械があるそうで、微妙に個性が出るのだとか)
(タマグスクさんの道具たち。いい感じに育っています)

■父から「男兄弟よりも頼りになる」と言われるように

--- 仕事中、心掛けていることはありますか?

入った当初は先輩をしっかり手伝うことに重きを置いていましたが、今は自分が主となって作業するようになってきているので、しっかり責任をもってひとつひとつの判断をするように努めています。

--- なかなか責任重大なお仕事ですよね。これまでトラブルや大変だった出来事ってありますか?

一から航空機に取り付く部品を製作することもあり、手順書を確認しながら行うのですが、製作した部品を削りすぎちゃったり、穴のサイズや位置を間違えてしまい、一から作り直したことがあり、時間をかけてしまったことがありましたね。
また、先輩と作業をする中で大板から機械を使って小さく切断する際に、先輩から「押してほしい」という指示があった際、先輩は板を押して欲しかったのにニュアンスを取り間違えてしまって、ボタンを押しちゃったんですよ。そのボタンは板を切断するスイッチだったので、板がバスっと切れて先輩をびっくりさせてしまいました。

--- それはびっくりしますね。そういうのって、どうやって解消するんですか?

言葉のやりとりの問題なので、しっかり言葉でやりとりして、確認もして、ちゃんと防ごうと話し合いました。その後は、しっかり確認し合いながら作業するようになりました。

--- ミスをしてもお互いで話し合える人間関係ができているのが素敵です。この仕事をしてて、やってて良かったなと思う瞬間ってありますか?

父のモノ作りを手伝えるときは、嬉しいなって思います。少し前に父が、椅子を分解してまた組み立てるっていう作業をしてたんですけど、 ドリルを使う作業を手伝ったらとても喜ばれたんです。うちは4人兄弟で私以外は全員男なんですけど、父からは兄弟より頼りになるって言われます(笑)。

(幼いタマグスクさんとお父さんのお写真)

--- すごい。お父さんも嬉しいですよね。
最後に、今後チャレンジしたいことがあれば教えてください。

非破壊検査という目に見えない損傷を検査するのですが、その資格を取るために今勉強しているところです。
非破壊検査ができるようになると、飛行機に鳥がぶつかった時(バードストライク)や落雷など、空港のターミナルに呼ばれる急なトラブルに対応することができるんですよ。
日本国内で見ても有益な資格なので、その分難しいものではありますが、頑張って取得したいです。
構造整備課は他にもたくさん業務に役立つ資格があるので、 非破壊検査の資格取得後も、自分が取れる資格をどんどん増やしていきたいなと思っています。

(2024年8月取材)

(文、写真:三好優実)

★今回のインタビュー記事はいかがでしたか?
空港でのお仕事には、他にも様々なものがあります。

職場のリアルを身近に感じられる特設サイト「だから、この仕事が好き」を公開!
SNSフォロワー約4万人の人気漫画家・うえはらけいた氏による「飛ばない空のお仕事マンガ」、全国340名の空港で働く職員を対象にしたアンケート調査をはじめ、コロナ禍の激動を乗り越えた現場の仲間たちが、今自身の仕事にどのような誇りを感じ、何にやりがいを見出しているのか、リアルな声をお届けします。

空港を支えるプロ裏方の情報が盛りだくさんのサイト「空港の裏方お仕事図鑑」では、他にもたくさんのインタビューを掲載しています。

ライター:三好優実
沖縄のフリーライター、編集者。取材と執筆を通して、ひとりひとりの心が自由になるための記事を目指す。企業の公式サイトや新聞社にてコラム連載も執筆中。『香川あるある』著者。個人のnoteにて母親インタビューとワーママ日記を連載中。
note:https://note.com/yumi03/

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